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【書評】平安の装束の向こうにアジアの風土を感じる

【書評】『美しき雅楽装束の世界』/遠藤徹著/青木信二撮影/淡交社/本体3200円+税

 本書は、宮内庁式部職楽部が行った雅楽の著名な演目の舞台で着用された装束を撮影した写真集で、演目ごとに曲目と装束についての解説が付く。写真の一枚一枚が美しく、かつ興味深い。

 本書によれば、雅楽は舞を伴う「国風歌舞(くにぶりのうたまい)」や「舞楽」、器楽合奏の「管絃」、歌謡の「催馬楽(さいばら)」、「朗詠」などからなる。

 このうち、日本古来の歌舞を源流とする「国風歌舞」は宮中祭祀や神社祭祀で舞われるもので、その装束は単色系で、簡素で控えめな美を感じさせる。一般の人が抱く雅楽のイメージはこちらではないか。

 非公開が多い「国風歌舞」に代わって、本書が主に取り上げるのは、5世紀から9世紀(古墳時代から平安時代)にかけて中国大陸や朝鮮半島から伝えられた楽舞を源流とする「舞楽」だ。

 その「舞楽」は中国大陸系の「左方」と朝鮮半島系の「右方」に分けられる。「左方」の中心は唐代中国で花開いた楽舞だが、そこには中国の伝統的な楽舞だけでなく、シルクロード沿いの西アジアや、インド、ベトナムから伝来した楽舞も含まれている。一方、朝鮮半島系の「右方」には高句麗、百済、新羅だけでなく、中国東北部から朝鮮半島北部に興隆した渤海の楽舞も含まれているという。

 つまり、雅楽というのは一般の思い込みとは逆に、実に国際色豊かなものであることがわかるのだ。これには驚くが、本書に収められた写真を見ていくと、中国の京劇を思わせる装束を始め、アジア各地で見られる極彩色系の文様が数多くある。

 平安時代に確立した雅楽の装束の向こうに、アジアの風土を感じることができる。

※SAPIO2017年8月号

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