中国への密輸が難しくなったために、北朝鮮の密売組織は、だぶついた麻薬を売りさばこうと、販路を国内に求める。人々は厳しい監視社会の中で、一時の慰みを得ようとし、薬物汚染は広がっていく。報告からは、そんな実態が浮かび上がる。
保衛部幹部は集会で、次のように深刻な懸念を吐露し、報告を結んでいる。
「個人が社会的生命を失うことは、何でもない。しかし、このような(麻薬使用者の)隊列が増えていけば、最後には、祖国という大きな家が崩れ、国が滅びてしまう」
【PROFILE】しろうち・やすのぶ/北朝鮮事情に精通するジャーナリスト。主な著書に『猛牛(ファンソ)と呼ばれた男』『昭和二十五年 最後の戦死者』『朝鮮半島で迎えた敗戦』など。
※SAPIO2017年8月号