筆者は、北朝鮮中西部・平安南道のある都市で昨年5月、秘密警察・国家安全保衛部(現国家保衛省)の地方組織が、違法薬物の取り締まり強化を目的に、地元住民の一部を対象に行った秘密集会の詳細な記録を入手した。そこには、麻薬犯罪の摘発事例が生々しく報告されている。
「この女は『カネは殺される覚悟で、稼がなければいけない』と抜かし、麻薬狂信者として策動して逮捕された逆賊だ」
集会で演壇に立った地方の保衛部幹部の報告によると、「この女」とは、下宿生活をしていた元女子大学生。卒業を目前に控え、麻薬に手を染めた。
「優秀な成績で卒業したい」と勉学に励むのを見た、下宿の女主人の「この薬を鼻に当てて吸えば、不眠不休で頑張れる」との甘言につられて使い出し、常用するようになったという。
元女子学生は、覚醒剤を1か月半使い続けていたのが発覚、退学になった。女主人は捕まったが、元女子学生はこの時はどういう訳か、逮捕を免れた。北朝鮮で横行する賄賂が効いた可能性もある。
「退学になった女は、カネをたくさん稼いで、快楽に浸って生きて行こうと決めた。下宿に居座り、食堂を運営した」(保衛部幹部)