◆「誰も気がつかなかったみたいだね」
それから丸一日が経過した翌朝、中庭を掃除していた私の背後から南部宮司がこう声をかけてきました。「宮澤君、誰も気がつかなかったみたいだね」。そう言って南部宮司は、ニヤリと笑いました。悪戯っ子のようなその笑いは、今も脳裏に焼き付いていますが、例大祭の期間中、ついぞマスコミ関係者は誰一人として20年ぶりに復活した真榊の存在に気づきませんでした。そこで私は、神社新報に首相の真榊奉納を記事にするよう頼むことにしたのです。
その後のマスコミの報道で、首相の真榊奉納の伝統は広く国民に知られるところとなりました。しかし、安倍首相の退陣と民主党政権の誕生もあって、その定着化にはなおも時間を要しました。
第二次安倍政権が誕生して、平成25年の春からは首相以下、衆・参両院議長、厚生労働大臣名の真榊が奉納されています。これも、あのとき、私の要請を快諾してくれた山谷議員のおかげです。
早いものであれから10年が経過しました。今では春秋の例大祭に際してマスコミが真っ先に報じるのは真榊の奉納です。私にしてみれば一つの目標を達成したことになりますが、本来ならば、それが当然のこととして報じられない状況が望ましいはずです。首相の真榊奉納が報じられるたびに、国家護持への途は途方もなく遠いことを私は実感させられているのです。
※宮澤佳廣氏・著/『靖国神社が消える日』より