大村氏は、「重要なのは自らの相続税のシミュレーション」と強調する。このO氏の場合でも、「1億円の預貯金」と聞くと、相当な資産家で多額の相続税を納めなければならないように思えてしまうが、決してそんなこともない。
「まず妻に100%相続させれば、1億6000万円まで相続税は無税です。妻から子への二次相続では相続税がかかってきますが、O氏の場合、子供は2人でした。1億円をそのまま均等に分割し、全く節税をしなかったとしても1人あたり385万円(2人で770万円)で済みます」(大村氏)
アパート経営に手を出したO氏は5000万円の土地と4000万円の建物の購入にかかった手数料3%が270万円。4000万円の建物に対する消費税(土地は非課税)が320万円。さらに建物の資産価値は購入から数年で1000万円も下がった。大村氏が続ける。
「きちんとシミュレーションができていれば、“アパート経営で大きな儲けを出せるノウハウがなければ赤字になる”とわかったはずです。『3600万円以上は相続税がかかる』『最高税率は55%』というフレーズばかりが先行していますが、実際には財産が1億円あったとしても相続で10%持っていかれるようなケースはほとんどありません。
孫の教育資金のための生前贈与であれば1500万円まで非課税、といった各種制度をうまく使えば、財産が1億円あっても相続税をゼロにするのは難しくない」
※週刊ポスト2017年8月18・25日号