しかし、好きな男の子が相手でも、性交の際には事件がフラッシュバックしてしまい、年頃の大塚さんにとって性交は修行のような行為になってしまいます。こうした経験から、自分のトラウマと向き合うために、AV業界に足を踏み入れる女性は多いそうです。大塚さんは、AV業界がそうした女性たちのシェルターになっていると感じていました。
しかし、性犯罪に遭った女性が、性産業に身を置く心理は理解されづらいようで、出版に伴ってニュースサイトで公開された大塚さんのインタビューには、真意を汲み取れないコメントが多く目に留まりました。
本の内容を読まないまま、「レイプに遭った人がAV女優になる意味がわからない」と書く人や、私が恐れていたように「自意識過剰なのでは?」と書き込む人もいたのです
私には心ないコメントを書き込んでいる人が、性犯罪の被害に遭った人や、AV女優の経歴を持っている人を自分とは全く違う人間だと思い込んでいるように思えました。もはや、大塚さんが実在しない人物のように捉えられているのを感じたのです。恐らく、もし直接顔を合わせたら、コメントに書いたようなことは緊張して言えないというよりも、彼女が生きているとわかったことで言えなくなると思うのです。面と向かったら、自分と同じ生きている人間なのですから。
しかし、大塚さん自身はこうしたコメントについて、憤りよりも、見ることができてよかったと話していました。
「作者として想定内の反応だったのもありますけど、いろんな人がいるってわかったので、私としてはこういう声を聞けてよかったと思っています。でも、ほかの被害者の子の目には入れたくないので、そこは考慮するべきでした。よく、芸名で活動しているやつの言うことなんか信じられないと書かれますけど、そういうことを言う人が何をしてくるかわからないから、本名で活動できないのが業界では暗黙の了解になっているんです。でも私は反対に彼らのことを知りたいと思っています。どういう生活をしていて、何を考えていて、どういう時にどういう気持ちであのコメントを書いてるのかなって」
大塚さんは事件の日から一貫して、人の寂しさや弱さを見つめ続けてきました。被害者にも、加害者にも、人間にはそれぞれの傷や考えがあります。