ところが、ここで予想だにしない事態が起こる。申請から8日後の6月9日、「所有者側の提出書類に真正ではないものが含まれていた」との理由で申請が却下されてしまったのだ。事態を告げられた積水ハウスの関係者は青ざめたという。その日以降、“土地所有者”とは完全に連絡が途絶えた。
いったい何が起きたのか。積水ハウス側との取引の場に現われた土地所有者は、赤の他人がなりすました「偽者」で、提出された印鑑登録証明書もパスポートも、なにもかも「偽物」だったのである。そしてその赤の他人は、63億円とともに消えた──。
〈他人の所有地を利用して詐欺を働く者〉
大辞泉でこう定義される「地面師」と呼ばれるグループに、不動産のプロである積水ハウスがまんまと騙されてしまったのである。彼らは、どんな手口を使ったのだろうか。
◆「池袋のK」と呼ばれる女
JR五反田駅を降り、目黒川の方向に少し歩くと、鬱蒼とした樹木に囲まれた古びた日本家屋がある。
近づくとそこが旅館だったことがわかる。外周は古びた薄茶色のモルタルで一部は崩壊。玄関には「日本観光旅館連盟 冷暖房バス付旅館 海喜館」という看板がかかっているが、何年も営業していない。朽ちた印象から地元では「怪奇館」とも呼ばれている。土地の所有者はこの「海喜館」の3代目女将・Sさん。地元住民はこう言う。