その木村氏が特任教授となったのは、加計学園疑惑が国会で追及され始めた4月である。その翌月、朝日による「総理の意向文書」のスクープで国家戦略特区問題に火がつき、5月31日には民進党が「国家戦略特区撤廃法案」を提出する動きを見せるなど、特区という枠組みそのものに対して、疑念が高まっていった。そして8月10日、文部科学省の大学設置・学校法人審議会が加計の獣医学部の認可判断を「保留」する方針を固めたことが報じられた。
国家戦略特区による獣医学部の設置に“待った”がかかったことで、野党はすでに認可されたケース(国福大)の検証にも乗り出している。報道機関にとって取材対象であることは間違いないが、その大学に、日本を代表する新聞社の元幹部や論説委員が退職後に続々と職を得ていれば、取材がやりにくくなることは容易に想像できる。大学側の「マスコミ対策」に取り込まれているのではないかという見方をされても仕方ないだろう。
◆「その件については話していない」
メディア法が専門の服部孝章・立教大学名誉教授はこう話す。
「メディアの責任ある立場にあった人が、大学に再就職をしたからといって、それだけでとがめられるわけではない。だが、安倍首相とメディアの距離感が問題視されている現状に鑑みれば、『岩盤規制に穴を開けた』と首相自身が豪語している大学で、新設医学部が開校したのと同じタイミングで“客寄せ”と見られかねない特任教授に木村氏が就任している。どのような実態にあり、問題があるのかないのか、朝日新聞は積極的に調査をして発信すべき。巨額の税金が投じられる大学ビジネスだからこそ、非常に重要です」