小説には、金委員長の異母兄で、北朝鮮当局による毒殺が報じられた正男(ジョンナム)氏にあたる「ジョンナムール」も出てくる。やはりすでに死んでいるはずのジョンナムールだが、人間と会話ができるAIロボットが、ジョンウィンを前に突然、自分はジョンナムールだと宣言し、当人としか思えないふるまいを始めるのである。
その正体が何なのか、読者に考えてもらいたいとする荒木氏だが、ロボットについては、ヤップランドから密輸されたという設定になっており、日本企業製の実在する製品を連想させないでもない。
荒木氏は、ミサイル問題に対するヤップランド人の反応も描いた。すなわちそれは、氏の目に映る日本人の姿である。
「危機意識のいびつさは気になりますね。漠然と怖がって騒ぐけれど、具体的にどうしてどういうふうに危ないのか、正確に理解している人は多分そんなにいない。備えるにしろリスクを受け入れるにしろ、本気で対応する覚悟があるようにも思えない」
小説の中で起きる不測の事態。似たようなことが現実にならないと言い切れるだろうか。その時世界はどう動くのか? そして日本はどうふるまうべきなのか?