「そのためにはまず、打者のタイミングが合っているかどうかを観察、相手が変化球にどう対応しているかを洞察、それを総合して攻略法を判断する。
キャッチャーは敵を知らないと商売にならない。プロはとにかく、『敵を知り、己を知る』こと。バッターはヒーローインタビューで本当のことなんか言わないんだ。たとえ球種にヤマを張っていてたまたま当たっただけでも、“体が自然に反応してくれました”なんて平気で嘘を言う。結果がすべての世界だから、何を言ったっていい。だからこそキャッチャーは自分の目でバッターの頭の中を見通すしかない。
右目でボールを受け、左目で打者の反応を見る。どんなに選球眼のいい打者でも、コースは見分けられても高低に対応するのは難しい。そうした仕組みを知ったうえで、配球を組み立てていくわけだよ。最後に考えても分からなくて、困ったときには原点に戻って、“外角低め”を要求する。まぁ、いつも困っているのか、外角一辺倒の楽天の嶋(基宏)みたいなのもいるから教える側も大変なんだ(笑い)」
監督を退いても、野村氏の捕手への評価は辛口だ。ただ、やはり同じ捕手として中村には期待するところが大きいという。
「いままで話したような意識を持ってやれば、素質を生かして、いいキャッチャーになれると思う。ただ、彼を伸ばせる球団があるかどうかが心配だけどね。とにかく自ら勉強する。捕手として成長できれば、配球の読みも深くなって、今以上に相手が怖がるバッターにも成長できるはず。オレが捕手をやっていたおかげで打者として数字を残せたように、ね。
なに、広陵の先輩には小林(誠司、巨人)がいる? あんなの目標にしているようじゃダメだ。夢が小さすぎるよ」
中村を語る野村氏はやはりどこか嬉しそうに見えた。
※週刊ポスト2017年9月15日号