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今度はレンジ発表のBALMUDA社長「マーケティングはしない」

寺尾玄社長。6日に新商品「バルミューダ ザ・レンジ」を発表した(撮影:内海裕之)

“最高においしい”トーストを焼く2万円超の「バルミューダ ザ・トースター」(以下「ザ・トースター」、そよ風を再現した3万円超の扇風機「ザ・グリーンファン」(以下「グリーファン」)。これまでになかった高級家電を世に送り出しているバルミューダ(BALMUDA)が、9月6日、新商品となる「バルミューダ ザ・レンジ」を発表した。

「バルミューダ ザ・レンジ」(以下「ザ・レンジ」)は、必要な機能をわかりやすくシンプルに備えた上に、ボタンなどの操作音を、楽器の音が美しくユーモラスに奏でる。レンジの操作自体を楽しく、キッチンを少しでも明るくという思いが込められている(価格帯は税別4万3500円~5万4500円、カラー3種、11月末〜12月上旬の出荷、発売を予定)。

 成熟する家電市場で異例のヒットを飛ばす理由はどこにあるのか? 高校を中退して海外を放浪、ミュージシャン活動をするも挫折、一転、ものづくりの道へと分け入った寺尾玄(げん)社長。商品と同様、その人生も独自性に満ちている。「うまくいったという気持ちはゼロパーセント」と、はるか先を見据える社長がいま考えていること、これからの会社像について、話を聞いた。(【前編】【後編】、2回にわたってお届けします)

* * *

◆「ポップ」とは何かを追求するんです

──9月6日に新商品「バルミューダ ザ・レンジ」を発表されました。2003年の創業以来、扇風機「グリーンファン」や「ザ・トースター」などを発売し、高級家電市場を牽引してきたバルミューダですが、ヒット商品を生み出している現状をどう分析されていますか?

寺尾:いまバルミューダがやっていることを一言でいうと、「お客様の役に立つ」。これが事業や行動の目的です。商品をたくさん売るとか、世界一の会社になるとか、社会を変えるとかではなく、「人の役に立つ」。この考え方に立たないと、ヒット商品は生まれないと思う。自分たちが良いと思うものを使ってもらいたい、と考えていた時期は全然ダメでした。私の考えでは、社長業で大事なのは、「自分でなくなる」こと。喜ぶべきは自分ではなく、お客様です。

──「お客様が喜ぶもの」をどのように見出していらっしゃいますか? マーケティング(市場調査)についてはどうお考えでしょうか。

寺尾:マーケティングは一切しません。では何を頼りにするかといえば、私独自の考え方があります。「ポップ」とは何かを、追求するんですね。ポップとはポップミュージックのポップで、多くの人が感じる気持ちよさであり、多くの人に受け入れられる素晴らしさです。現代は多様性の時代といわれますが、7割の人を動かせるものは確実にあると私は考えています。それがなければ、なぜ、ある店には行列ができ、ある店にはできないのか、説明がつかない。家電に限らず、音楽でも写真でも映画でも料理でも、7割の人がいいと思うものには、ポップさが備わっていると考えています。

──「ポップ」な商品が売れるというわけですね。寺尾社長が考える「ポップ」の構成要素をもう少し具体的に教えていただけますか?

寺尾:現時点で私が辿り着いた答えは「“死”から遠いもの」です。なぜなら、人間がもっとも避けたいのは死ぬことだから。ゆえに、その対極にある、生(せい)がいきいきと輝いている状態を、われわれは楽しい・美しい・心地よいと感じるのではないでしょうか。言い換えれば、元気な状態が素晴らしいと、われわれは本能で知っているはずなのです。ポップの根底にあるのは、それだと考えています。

 こうした人間の本能を突き詰めていくと、全人類が欲しがるものがあるのではないかと考えられます。それは「素晴らしい人生」。お金は要りません、と言う人も、素晴らしい人生が要らない、とは言わないのではないか。私たちはただの道具屋なので、素晴らしい人生そのものを提供することはできません。しかし、素晴らしい人生とは、素晴らしい体験の積み重ねで成り立つと考えれば、お客様の体験の一部を、私たちの道具によって素晴らしいものにすることはできるはずです。その考え方の繰り返しで、新しい商品を開発しています。

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