しかし現代は歩くこと、移動する楽しみよりも、目的地にいかに早く到着するかが重要になり、ナビやスマホが最短距離を的確に教えてくれる。便利ではあるけれど、迷ったり、寄り道したりといったハプニングはなくなってしまった。
歩かなくなった人間は運動不足を痛感し、ルームランナーの力を借りる。ルームランナーの起源は、ロンドン郊外の刑務所に設置された「トレッドミル」(踏み車)だという。その目的は囚人の精神の矯正と運動のためであり、穀物の製粉などの動力として使用することもあったそうだ。この機械の単調さは囚人たちに精神的打撃を与えたとされるが、それは考えることを奪われた苦痛にほかならない。
※週刊ポスト2017年9月15日号