ところが日本の競馬の主戦場は軽い芝です。軽快に切れる走りを覚えさせなければ勝てません。日本は雨も多いので、大いなるジレンマです。
重馬場の時は特に返し馬に注目してみるといいと思います。好天の良馬場ならば、ゆったりと伸び伸び走る馬がいい。それは当たり前ですが、悪天候の重馬場では大きく跳んだときに着地した先が滑って、本来のフォームを崩すかもしれない。だから重馬場の返し馬はピッチ走法がいいのです。
だけど馬は本来、ちょこちょこ走るのが好きではない。そこを鞍上がうまく誘導してやる。重馬場ほど返し馬が重要です。ここに注目すると面白いかもしれません。
ピッチ走法で一所懸命に足を回転させているのに、それほど進んでいない馬がいます。手足だけが動き、どうにも走りの効率が悪い。たぶん重馬場が苦手なのです。ちょこちょこ動きながらも馬体の中心がすっと前進する馬がいい。馬は重馬場を嫌がることはありませんが、上手く対処できないということです。
今年の目黒記念で3着に入ったハッピーモーメント(7歳牡)の新馬戦は2012年11月京都1800メートル芝の重馬場でした。そこで勝ちその後はほとんど良馬場を走って、20戦目の稲荷特別(2016年1月、京都芝2000メートル)の重馬場で勝利。この間にも2勝を挙げていて、フォームが萎縮することもなく足元が滑るトラウマの心配はなさそうでした。
新馬戦の鞍上はR・ムーア、稲荷特別ではC・ルメール。騎手が決まるときにレースの馬場状態が分かるはずもありませんが、重馬場でも馬を巧みに走らせる外国人騎手とのご縁があったのかもしれません。
●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後15年で中央GI勝利数23は歴代3位、現役では2位。今年は13週連続勝利の日本記録を達成した。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカなど。『競馬感性の法則』(小学館新書)が好評発売中。
※週刊ポスト2017年9月15日号