日本初の「赤ちゃんポスト」が熊本市の慈恵病院に開設されて10年。時代は様変わりし、今では「お腹の中の子」と里親をマッチングさせるサービスまで登場した。その名も「インターネット赤ちゃんポスト」。賛否が渦巻く同サービスだが、運営団体の代表はあらゆる批判を受け止めて、今日も土俵際で命を救っている──。
「わが子を養子に出したい母親」と「里親になりたい人」をマッチングさせること、それが「インターネット赤ちゃんポスト」の目的だ。同サイトを運営するNPO法人『全国おやこ福祉支援センター』(大阪市)の代表、阪口源太氏が語る。
「やむを得ない理由で子供を育てられなくなった親と、病気や年齢などの理由で妊娠できず、養子を欲する人のマッチングを行う。いわゆる養子縁組の斡旋事業です。予期せぬ妊娠をした親に対する相談業務や、子育て支援も行っています」
わが子を養子に出したい母親は、まずサイト上で専用のマッチングアプリ「こうのとり」の会員登録を行う。Eメールアドレスを登録し、パスワードを設定すればログインできる。登録には年齢も国籍も問われない。本人確認が取れ次第、スタッフが面談し、「子供を里親に出します」という覚書を交わす。里親希望者も登録の仕方は同様だが、月額3000円の利用料がかかる。
また登録の際、住所、年齢、職業、資格、年収、貯蓄金額など約70項目の記入が必要となる。会員登録した里親希望者は、募集がかけられた赤ちゃんの詳細な情報を閲覧することができる。登録からマッチング、出産、引き渡しまで、実母に金銭的な負担はない。
「里親がすべて出す決まりです。実母の出産前後の生活費や健診代、入院費やその他諸費用でだいたい100万円。加えてわれわれNPOの運営費として50万円。特別養子縁組のための弁護士費用で20万円。すべて合わせて200万円ほどになります」(阪口氏)
しかし、金銭授受があることで、「人身売買なのではないか」との批判も多い。
◆妊娠・出産を生業とする人間が出てくる可能性も
養子縁組の問題に詳しい日本社会事業大学准教授の宮島清氏が語る。
「子供と母親にとって、最も避けなければならないのは、危険な場所での孤独な出産です。インターネット赤ちゃんポストは、妊娠に悩む女性がアクセスしやすいこと、その女性を病院での出産に導いている点は高く評価できます。
しかし、養父母候補者が出産費用や母親の生活費を負担し、これによって子供を迎えることが約束されるということであれば、それは人身売買にほかならない。金銭が介入している以上、出産後のお母さんがキャンセルするのは相当に難しくなります。これは、赤ちゃんが自分を産んでくれたお母さんに育てられる権利や可能性を奪うことに繋がる」
「赤ちゃんポスト」を行ってきた熊本市・慈恵病院の元看護師長下園和子さんはこう語る。
「混同されがちなのですが、慈恵病院の取り組みと、インターネット赤ちゃんポストは全くの別物です。慈恵病院は赤ちゃんを“預ける場所”であって、その後は児童相談所が子供の処遇を決定する。里親探しに病院側はかかわらないのです。