──脳科学の観点から、いじめを回避する方法としてどんなことが考えられますか?

中野:対応策としては、人間関係を固定化しない工夫が有効です。例えば子どものいじめなら、習熟度別のクラス分けを増やす、席替えをするなど、人間関係の流動性を高めるという方法が考えられます。大人の場合は、「この人は自分の敵にはならないだろう」と思わせることも効果があるでしょう。例えば、「自分は完璧な人間ではありません」ということをアピールする、わかりやすい自分の「負」の部分を相手にさらけ出すのもよいでしょう。心理学で言う「アンダードッグ効果」と言われるものです。「実家がすごく貧乏な上に苦労して育ったんです」とか「実はおじさんのウケが悪いので、出世はとても望めません」などと、自分だけが得をしているのではないかと相手に疑われがちな部分を相殺できるような自分の負の部分を相手に見せるのもよいでしょう。

──いじめが起きにくい集団の特徴はありますか?

中野:個人の裁量権が小さいところでは、集団の力というのが相対的に大きくなります。常に均質性が高く、仲間意識が強いから起こるのがいじめという現象であることを考えると、個性優先で、みんなが違っている均一性の低い集団では、誰が邪魔者なのかわかりづらい。つまり、一人だけ違うといじめは起こるけれど、みんなが違う状態ではいじめの起こりようがないと想定されます。

“ももいろクローバーZ”という日本のアイドルグループがあります。参考になると思うのは、メンバー5人がそれぞれカラー(個性)を持ち、グループの中での役割が違っているところです。そしてライブでは、メインとなる人が5人の中でどんどん入れ変わり、すべてのメンバーが活躍できる場があるのです。

 それぞれの個性はぶつかることなく、すべての人が主役になり、成長できる場面が用意されている。それゆえ、お互いの個性ややり方、考え方を尊重するチームができあがっている。そういう関係においては、いじめは起こりにくくなると考えられます。

 いじめは悪い子だけがやるものだ。だから悪い子を正せばなくなるのだと思いがちですが、人間はそもそも理想的な存在ではないということを、まず前提として受け入れなければならないと思います。「いじめ」は人間の機能という可能性をあえて吟味し、いじめについて科学的理解を深めることによって、より有益なアプローチも見いだせるのではないでしょうか。

【PROFILE】なかの・のぶこ/1975年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部応用化学科卒業。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所にて、ニューロスピン博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。科学の視点から人間社会で起こりうる現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。現在、東日本国際大学特任教授。著書に「心がホッとするCDブック」(アスコム)、「サイコパス」(文藝春秋)、「脳内麻薬」(幻冬舎)など多数。また、テレビコメンテーターとしても活躍中。

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