その地域で生まれた産業がいかにして誕生し、発展したかを知り、街の魅力を再発見できる“産業観光”。今回は埼玉県行田市。現在放送中の日曜劇場『陸王』(TBS系)の舞台となっている同市は、映画『のぼうの城』(2012年公開)の舞台としても有名だが、日本有数の足袋の生産地としても知られている。
戦国時代、豊臣秀吉の関東平定に際して石田三成が行った、水攻めにも屈しなかった忍城や、東日本最大の埼玉古墳群など、歴史好きに人気の行田市。今年4月には江戸時代から続く足袋蔵(足袋倉庫)の点在する街並みが、日本遺産(文化庁)に認定され、足袋の町として脚光を集めている。
現存する足袋蔵は80余り。なぜ、これほど多く存在するのか、行田市教育委員会生涯学習部文化財保護課長の中島洋一さんはこう説明する。
「利根川と荒川に挟まれ、綿栽培に適した土壌に恵まれている行田市は、300年ほど前に武士の妻たちの内職として、足袋作りが盛んになったと伝えられています。やがて足袋は名産品となり、明治以降に発展。昭和13(1938)年には、全国の8割以上をシェアしていました。足袋は主に冬に売れるのですが、冬に販売する足袋を夏頃から作り、冬まで足袋蔵で保管していたのです」
足袋蔵の特徴は酒蔵やしょうゆ蔵などと違い、蔵の真ん中に柱がないことと床が高いこと。
「足袋は大きな木箱に入れて出荷していたので、出し入れしやすいように中央に柱を作らず、壁の柱を多くして強度を保ちました。また通気性をよくするために、床を高くしたのです」(中島さん)
足袋メーカーも数多く存在するが、中でも工場見学ができると評判なのが1949年設立の『きねや足袋』。
「110年以上前に作られたドイツ製のミシンをメンテナンスしながら、使い続けています。足袋製作は引き伸ばしから仕上げまで13工程あり、どれも熟練技が必要ですが、特につま先を縫う“つま縫い”は慣れるだけでも3年かかるといわれています」(代表・中澤貴之さん)
足袋の歴史を間近で見られるのは行田ならではの魅力だ。
撮影/菅井淳子
※女性セブン2017年11月9日号