「私は京都市内に勤めていて、僻地経験はないんですが、石野先生の新聞連載は毎回切り抜いたり、個人的に尊敬していたんです。でも、お忙しい方だし、取材は無理だろうと諦めていたら、たまたま仲のいいママ友が医大で同期だったらしく、いいよ、紹介してあげると言ってくれて。それからです、先生の活動に密着させてもらったのは。

 彼は地元伊根町で病院勤務の傍ら診療所長を兼ね、ワークショップまで開いていた。要するに人はいつか死ぬ、貴方はどんな死に方がしたいですかって、人が死ぬまでのプロセスを寸劇で見せて、意識改革を図ってるんです。

 例えばいざって時には、119より僕を呼んでくださいとか、家で死にたい人は最期までサポートするから、わがまま言っていいんですよとか。それを見る地元のおじいさんたちもゲラゲラ笑っていて、死に方は自分で選べるということを面白おかしく学べる場なんです。先生は元々故郷のために医者を志した方なんですが、そこまでなさる情熱に私は興味があって、この三上を造形してきました」

 一方主人公の境遇もなかなかに過酷だ。夫がよそに女を作り、妊娠までさせたことを、奈緒は愛人のブログ〈ソムリエ響子のワインEYE〉で知り、一方的に離婚を迫られる。ひとまず涼介を連れて帰省したが、この10年、育児に専念してきた〈ペーパーナース〉の彼女には到底納得できない。

「ずっと夫に尽くしてきた専業主婦にすれば、それこそ天災級の衝撃ですよね。私としては彼女がそのマイナスをどうプラスに変えるかを描きたかったし、夫と愛人はとことん悪者にした方がいいと思って、響子をこのイヤ~な感じのブログの主にしてみました(笑い)。

 最近はペーパーナースも話題になっていて、どこも人手不足に喘ぐ中、潜在的な有資格者が何万といる。奈緒は母親の死因や病院に不審を抱き、看護師にならずに結婚した人なのですが、涼介を育てていくには自分が働くしかないし、何とか壁を乗り越えてほしくて」

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