いちゃもんをつけるのは、今も変わっていないようで、特定秘密保護法や安保法制に反対する発言を積極的にしている。研究だけしている「専門バカ」とは違う。世の中にモノ言う物理学者なのだ。
特定秘密保護法については、市民の知る権利が大幅に制限され、取材・報道の自由、表現・出版の自由、学問の自由など、基本的人権が著しく侵害される危険があると抗議している。
これをテレビで発言すると、ほどなくして外務省関係者が数人、大学の研究室にやって来た。懐柔しに来たのだろう。
そのとき、益川先生は「原爆の父」といわれる物理学者オッペンハイマーのことを話したそうだ。オッペンハイマーは、巨大な破壊兵器を持つことで戦争の抑止力になると信じて原爆を開発した。
しかし、広島・長崎で使われ、「我は死神なり。世界の破壊者なり」と後悔。次の水爆の開発に反対したことで、彼はソ連のスパイとでっちあげられ、研究者生命を事実上奪われた。科学者同士の嫉妬があったかもしれない。水爆の父エドワード・テラーと対立したことは大きかった。アメリカの原子力委員会はオッペンハイマーを休職処分にし、生涯FBIの監視下に置いた。
益川先生は、科学が権力や戦争に利用されてきた歴史を苦々しく思っていた。二度と過ちを繰り返さないためにも、国家権力には「秘密」を握らせてはいけないという思いで、この話をしたのだろう。