「あとは当時、『この品のメンズはないか』とよく聞かれた商品があったんですが、そのメンズ商品が今年やっと出たりね。ファストファッションでもZARAでは現場の声をスペイン本社が吸い上げ、店に並ぶまで2週間ですよ。それがユニクロは2年かかる。生産性を謳うわりに、需要を本部に上げる効率が悪い!
要するに柳井さんの言う生産性とは、人件費の対売上比率10%前後という数字さえ守れればいいんですね。でも人件費には心も付随し、商品の値下げと同じ感覚で下げるとヤル気まで削がれるという経営の初歩が、完全に抜け落ちている。
確かにトップの声が浸透する速度は随一だし、彼を教祖と崇め、何も考えずに働きたい人はハマると思う。でも人は普通、物を考えますからね。信者だけが救われる宗教じみたトップダウンなんて、僕は御免です」
彼の怒りはカンボジアの生産工場を取材するに至って、ついに沸点を超える。
「例えばある下請けの工員は雨露凌ぐのもやっとの家に住み、しかも組合に参加したことでその工場もクビになった。中国も酷かったけど、より安い人件費を求めて移った先はさらに酷く、かといって消費者の良心に期待するのも限界があると思うんです。ただその服や価格がどんな人々の働きに支えられているかを知るだけでも、ものの見え方は全然違うはず。読む前と後で景色が変わるのが、僕の思うイイ本なんです」
個人的には店長が店員に勤務時間の延長を頼む際に使う、〈延びれる?〉という社内用語が、悲しかった。