「僕にはそれが柳井氏からの〈招待状〉に見えた(笑い)。サービス残業にしてもあると認めた上で対策を講じるならまだしも、『そんなものは1つもない』というのが彼の前提なので、現場では極力、目視を心がけました。例えば僕が20時に仕事をあがる時、持ち物検査のハンコを押してくれた店長自身の勤退確認リストを翌日見ると、退勤時間が18時。どの店でも結局業務量と人手が合っていないんです」
横田氏をワクワクさせたのは毎週本部から各店に届く〈部長会議ニュース〉だ。彼は柳井社長直々の檄や問題意識が具体的に読めるこのリリースと新聞報道を照合し、その一方で店内では商品の〈袋むき〉や〈売変〉作業に忙殺された。ユニクロでは商品を工場から買い切るSPA戦略をとっており、度重なる売価変更や商品の畳み直しは現場にとって大きな負担だった。
「僕は会社の歴史や業績に店長より詳しいし、〈会社が倒産してしまう〉と現場を脅してまで経費を削らせる姿勢にはとにかく驚いた。誰も財務諸表を読んでないから怯えるだけで、内部留保が3400億円もある会社は絶対潰れへんって何度言ってあげたかったか」
◆数字さえ守れればいいという生産性
一人一人に〈経営者マインド〉を求め、それでいてボトムアップは一切受け付けない、超トップダウン体制を象徴する逸話がある。ビックロで、免税レジの看板が日本語表記しかなく、外国人客が何度も列に並び直していることに気づいた横田氏は、案内文の英訳まで添えて改革を提案。が、本部に指示されないことは一切しない店長らはこれを放置し、客側の不便は結局解消されないままだった。