進次郎が政界に現われるのは17年後の2009年総選挙、奇しくも角栄と同じ28歳での初当選で、そして今年、やはり角栄と同じ36歳で自民党副幹事長に就任した。
角栄と進次郎──片や裸一貫から実業家として財をなし、政界に転じてからも実力でのし上がった叩き上げ。片や総理大臣を父、防衛庁長官を祖父に持ち、曾祖父は衆院副議長の四世議員という政界サラブレッド──政治家としてのルーツはまるで違う。しかし、時流に乗り、国民の期待を背に政界の階段をかけのぼる進次郎の姿は「今太閤」と呼ばれた角栄を彷彿とさせる。
ひとたび街頭に立てば、聴衆を惹きつける「つかみ」の話術が2人は際立つ。演説上手の政治家は何人もいたが、2人にはこんな共通項がある。作家・大下英治氏が語る。
「進次郎は政治家になって車で移動中、いつも小泉純一郎の演説テープを聞いていた。最初は父の演説で修業し、次は落語のテープを聞いた。彼は落語好きで、贔屓は現役の柳家さん喬。上野の演芸場にも聞きに行く。彼のしゃべりは父の演説と落語の間合い、切り返し、笑い、なんです。そういう話術を持つ政治家はいまでは少ない」
一方の角栄の演説修業は浪花節だった。
「浪花節の名人と呼ばれた角栄は、支持者に天保水滸伝などを披露していた。浪花節の語りが聴衆の心をつかむ話術につながっている」(同前)
2人の情報発信力は、天性の資質というより、国民に語りかけることを意識した訓練で身につけたものといえる。
(文中一部敬称略)
※週刊ポスト2017年12月15日号