忖度という病で、さらに深刻な症状は、「過剰適応」だ。ブラックバイトやブラック企業というのがあるが、過酷な環境にも無理やり適応してしまう。子どものころから「いい子」であることを期待され、親や先生の顔色をうかがってきた人が陥りやすいといわれている。

 過剰適応して自分を押し殺している人は、相手も自分を押し殺してくれないと怒りを持つようになる。怒りで、足を引っ張り合いながら、負の均衡を保とうとする。だから、ブラックはどんどん激化していく。

 データ改ざんなどの組織ぐるみの不正も、過剰適応である可能性がある。さらに、社員が積極的に不正に手を貸すことで、自分が必要とされていると思い込んでしまうようになる。そうなると、病状は悪化し、「共依存」という状態になってしまう。

 共依存は、アルコール依存症やギャンブル依存症のパートナーが発症する例が知られている。彼らは、依存症者に対して自己犠牲的にふるまいながら、相手をコントロールしようとするので、依存症からの回復はなかなか進まない。

 組織で不正があったときも、共依存者がいると、組織の自浄作用は働かず、不正が発覚したときには手遅れになっていることも少なくない。忖度という病は、こうしたさまざまな症状を呈する。

「忖度」という言葉は、モリカケ問題に端を発し、一気に広がった。「Jアラート」や「ちーがーうーだーろー!」とともに今年の流行語大賞にもノミネートされた。

 モリカケ問題の追及逃れともとられかねない突然の解散の後、自民党が大勝。何事もなかったかのように来年4月の加計学園の獣医学部新設が認可された。

 一強の首相は、国民はすぐに忘れるとタカを括っているのだろうが、果たしてそれでよいのだろうか。「忖度」という言葉をただの流行語で終わらせてはならないと思う。

●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に、『人間の値打ち』『忖度バカ』。

※週刊ポスト2017年12月15日号

関連記事

トピックス

ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
《子どもの性別は明かさず》小室眞子さんの第一子出産に宮内庁は“類例を見ない発表”、守谷絢子さんとの差は 辛酸なめ子氏「合意を得るためのやり取りに時間がかかったのでは」
NEWSポストセブン
現在、闘病中の西川史子(写真は2009年)
《「ありがとう」を最後に途絶えたLINE》脳出血でリハビリ中の西川史子、クリニックの同僚が明かした当時の様子「以前のような感じでは…」前を向く静かな暮らし
NEWSポストセブン
ファッションの面でも注目を集めている愛子さま(2025年5月18日、撮影/JMPA)
《公務でのご活躍続く》愛子さまのファッションに感じられる“母・雅子さまへのあこがれ”  フェミニン要素で“らしさ”もプラス
NEWSポストセブン
Mrs.GREEN APPLEの冠番組『テレビ×ミセス』(TBS系)が放送される(公式HPより)
《ミセスがテレビに進出!》冠番組がプライム帯で放送される3つの必然性 今後、バラエティ進出が拡大する可能性も
NEWSポストセブン
5月20日の公務での佳子さま(時事通信フォト)
《第一子出産で注目》佳子さま、眞子さんの“お下がりファッション”ブランドは「ご家族で愛用」背景にあった母・紀子さまの影響【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
指定暴力団山口組総本部(時事通信フォト)
六代目山口組の新人事、SNSに流れた「序列情報」 いまだ消えない「名誉職」に就任した幹部 による「院政説」
NEWSポストセブン
会話をしながら歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《親子スリーショットの幸せな日々》小室眞子さんは「コーヒー1杯470円」“インスタ映え”カフェでマカロンをたびたび購入 “小室圭さんの年収4000万円”でも堅実なライフスタイル
NEWSポストセブン
元女子バレーボール日本代表の木村沙織(Instagramより)
《“水着姿”公開の自由奔放なSNSで話題》結婚9年目の夫とラブラブ生活の元バレーボール選手の木村沙織、新ビジネスも好調「愛息とのランチに同行した身長20センチ差妹」の家族愛
NEWSポストセブン
宮城野親方
何が元横綱・白鵬を「退職」に追い込んだのか 一門内の親しい親方からも距離置かれ、協会内で孤立 「八角理事長は“辞めたい者は辞めればいい”で退職届受理の方向へ」
NEWSポストセブン
常盤貴子が明かす「芝居」と「暮らし」の幸福
【常盤貴子インタビュー】50代のテーマは「即興力」 心の声に正直に、お芝居でも日々の暮らしでも軽やかに生きる自分でありたい
週刊ポスト
ホストクラブで“色恋営業”にハマってしまったと打ち明ける被害女性のAさん(写真はAさん提供)
ホストにハマったAさんが告白する“1000万円シャンパンタワーの悪夢”「ホテルの部屋で殴る蹴るに加え、首を絞められ、髪の毛を抜かれ…」《深刻化する売掛トラブル》
NEWSポストセブン
西武・源田壮亮の不倫騒動から5カ月(左・時事通信フォト、右・Instagramより)
《西武源田と銀座クラブ女性の不倫報道から5か月》SNSが完全停止、妻・衛藤美彩が下していた決断…ベルーナドームで起きていた異変
NEWSポストセブン