芸能

永世七冠達成の羽生善治 静かな達成感は指先に表れる

「永世七冠」を達成した羽生善治棋聖

 臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になった著名人をピックアップ。記者会見などでの表情や仕草から、その人物の深層心理を推察する「今週の顔」。今回は、羽生善治棋聖の今後を読む。

 * * *
 竜王戦を制し、史上初の「永世七冠」を達成した羽生善治棋聖。前人未到、空前絶後の偉業、将棋界の生ける伝説といわれるほどの快挙を成し遂げたのだが、勝敗が決したその時は、緊迫感に包まれていたものの、呆気ないほど静かに訪れた。

 渡辺明前竜王の打った手に、すかさず羽生棋聖が、最後の一手を打つ。勝ち筋が見えると震えるといわれている指し手がかすかに震えるが、すでに負けとわかっていた渡辺前竜王は、気持ちに区切りをつけるためかお茶を飲んだ。打たれた最後の一手に、茶碗を置くと「参りました」と投了し、頭を下げた。投了を受けた羽生棋聖も、両手を膝について丁寧に頭を下げる。それは戦った相手への礼儀と敬意。将棋界を知らない者にとっては、かなり地味に見えた勝利の時だが、礼に始まり、礼に終わるという将棋界の歴史的な瞬間だった。

 頭を上げた羽生棋聖は上を見上げると、ほっとしたように表情を緩めると、強く腕組みをした。ようやく獲った、獲れたという気持ちと高まってくる感情を、自分自身で抱きしめている。そんなふうに思わせるような仕草である。

 こう言ってはなんだが、悩み苦しみ抜きながら、盤を前に向かい合っていた2人の棋士のボディランゲージは実に興味深かった。盤を見つめて集中力を高めては、盤から身体を起こして頭を掻いたり、頷いたり、あごに手を当て考え込んだり、上を向いたりと、頭脳だけでなく身体中を使って悩み苦しんでいたのだ。

 あごに手をやり、前のめりになったと思うと、また盤から離れ頭を掻く羽生棋聖。盤を見つめながら、うんうんという感じで小さく頷くと、勝ちが見えたのか盤へと指を伸ばす。勝利まであと数手に迫った指し手は震えていた。盤から手を戻すと、膝の横につき両手をついて、盤に前のめりの姿勢になり、身体を前後に軽く揺すり始めた。それはまるで打った駒を「行け、行け、勝ちに行け」と思いを乗せているように見える。

 反対に勝敗を分ける一手を打たれた渡辺前竜王は、姿勢を正すと頭を掻いて、上を見上げた。口をつぐむと、今後は頭をガクッと落としてうなだれる。あごに手を当て、前に倒れ込んたりと、悩む姿はどこかかったるそうでもあるが、頭だけでなく全身で悩んでいるという印象だ。集中力やテンションを長時間、維持するには体力がいるが、長い時間、悩み抜くにも、やはり体力がいる、将棋がマインドスポーツといわれる所以だろう。

 さて、新竜王となった羽生棋聖の会見では、質問者からの「永世七冠おめでとうございます」という言葉に礼を言い、それまでテーブルの上で組んでいた手を開き、左手で右手を包み込んだ。まさにその仕草が体現している通り、念願だった勝利を自分の手中に収めたのだ。

関連記事

トピックス

夜の街にも”台湾有事発言”の煽りが...?(時事通信フォト)
《“訪日控え”で夜の街も大ピンチ?》上野の高級チャイナパブに波及する高市発言の影響「ボトルは『山崎』、20万〜30万円の会計はざら」「お金持ち中国人は余裕があって安心」
NEWSポストセブン
東京デフリンピックの水泳競技を観戦された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年11月25日、撮影/JMPA)
《手話で応援も》天皇ご一家の観戦コーデ 雅子さまはワインレッド、愛子さまはペールピンク 定番カラーでも統一感がある理由
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんを支える「絶対的味方」の存在とは
《ドッグフードビジネスを展開していた》大谷翔平のファミリー財団に“協力するはずだった人物”…真美子さんとも仲良く観戦の過去、現在は“動向がわからない”
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
悠仁さま(2025年11月日、写真/JMPA)
《初めての離島でのご公務》悠仁さま、デフリンピック観戦で紀子さまと伊豆大島へ 「大丈夫!勝つ!」とオリエンテーリングの選手を手話で応援 
女性セブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(読者提供)
《足立暴走男の母親が涙の謝罪》「医師から運転を止められていた」母が語った“事件の背景\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\"とは
NEWSポストセブン
大谷翔平が次のWBC出場へ 真美子さんの帰国は実現するのか(左・時事通信フォト)
《大谷翔平選手交えたLINEグループでやりとりも》真美子さん、産後対面できていないラガーマン兄は九州に…日本帰国のタイミングは
NEWSポストセブン
高市早苗首相(時事通信フォト)
《日中外交で露呈》安倍元首相にあって高市首相になかったもの…親中派不在で盛り上がる自民党内「支持率はもっと上がる」
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(現場写真/読者提供)
【“分厚い黒ジャケット男” の映像入手】「AED持ってきて!」2人死亡・足立暴走男が犯行直前に見せた“奇妙な”行動
NEWSポストセブン
高市早苗首相の「台湾有事」発言以降、日中関係の悪化が止まらない(時事通信フォト)
「現地の中国人たちは冷めて見ている人がほとんど」日中関係に緊張高まるも…日本人駐在員が明かしたリアルな反応
NEWSポストセブン
10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン