一旦現在の話に戻すと、今年年初にサッポロが掲げた「黒ラベル」の目標値は前年比で101.0%。そして、今年1月~10月末までの累計では103%弱、とりわけ好調だという缶ビールに限れば111%という結果だった。年央にビールの安売り規制がかかったことや、ビール市場が10年以上にわたって縮小し続けていることを考え併せれば、大健闘といえるだろう。
髙島英也社長は、去る11月30日の新製品発表会の際、こう語っている。
「東京、大阪では昨年に引き続き、イベント企画を実施しまして、それ以外でも主要都市で『パーフェクトデイズ』(「完璧な生ビールを。」をテーマにしたスタンディングバー)を開催し、美味しい『黒ラベル』の飲用経験が本当に有効に、効果的に結果につながっているなと感じています。引き続き美味しい飲用経験を広げていき、その回数を増やしていきたい」
主要都市でのイベントでは、髙島社長自ら法被を着てのトップセールスを行い、特にこれまでサッポロが弱いとされてきた西日本エリアでのシェアアップが好調の一要因になっているようだ。また、2010年から「黒ラベル」のテレビCM(俳優の妻夫木聡らを起用)で「大人エレベーター」をコンセプトにしたものを継続して流してきたことで、「黒ラベル」の世界観がジワジワと世間に伝わってきたことも大きいという。
前述したように、スティールとの戦いにピリオドが打たれたのが2010年、その年に「大人エレベーター」のCMが始まったわけで、飲んでもらえば美味さはわかる大人の生ビールというコンセプト、世界観だったのだろう。
だが、一度失ったシェアを取り返すのは、激しい勝ち残り競争の中で容易ではなく、時間がかかる。その成果が、初めて前年超えという形で結実したのが2015年だったというわけだ。
髙島社長自身かつて、「もともと『黒ラベル』を飲んでいらっしゃる方は、本当にビールが好きな人が多く、それは消費者調査でもずっとわかっていました」と語っていたが、確かに、筆者が異業種の取材先の幹部に、よく飲むビールを尋ねた際、サントリービールの「ザ・プレミアム・モルツ」と「黒ラベル」を挙げる人が比較的多かった。
味覚は人それぞれだが、「スーパードライ」や「一番搾り」が女性を含む幅広い層に支持されているのに対し、「黒ラベル」は、しっかりとした麦の味わいや風味を求める、ビール党の支持が厚いのだろう。そこに、一貫したテレビCMなどマーケティングの徹底や西日本エリアを中心にした飲料経験を積み上げることで、「お、『黒ラベル』って結構、美味いじゃん」という新規顧客を上乗せできたのだと推測される。
一方の「ヱビス」は同じ今年1月~10月の累計で前年比100%。まずまずと一見映るのだが、会社側が年初に出した計画値は110.1%だったことを考えると、こちらはかなり低調と言わざるを得ない。