キャラにしても、1998年長野五輪の4羽のフクロウ的な「スノーレッツ」は子供の落書きみたいだし、2002年サッカーW杯日韓大会の「アトー」「ニック」「キャズ」はイソギンチャクに巨大な口をつけたような珍妙なデザインだった。だが、あれらは「もう決まったもの」として登場し、人々は当初文句を言ったがそれを受け入れた。
2008年に登場した奈良県のキャラ「せんとくん」は不気味過ぎるということで県庁に批判が殺到。選定方法について疑問を抱いた地元クリエーターの団体により対抗馬を作る動きが生まれ、「まんとくん」という鹿をモチーフとしたかわいらしい無難なキャラが誕生した。だが、どう考えても今やせんとくんの方が人気がある。
ネットで自由に意見が言える今、不快に思ったら抗議の意思を示すのが当然の権利といった状況だ。それにビビる仕事人達は「選考過程をオープンにして投票で決めればいいんでしょ!」という思考回路になり、クレーム回避こそ最優先事項となった。
かつての仕事人は「トーシローは黙ってな!」的な気概を持っていた。だが、今や「一般の皆様方の視点と貴重なご意見に耳を傾けます」という姿勢を取るようになった。こんなのは無駄。仕事人として大成するには、素人の意見など無視してナンボである。
●なかがわ・じゅんいちろう/1973年生まれ。ネットで発生する諍いや珍事件をウォッチしてレポートするのが仕事。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など。
※週刊ポスト2018年1月1・5日号