URと組んだ、リノベーションによる団地再生プロジェクトでは、すでに東京・板橋区高島平での団地物件をはじめとした実績がある。たとえばリビングの床は麦わらパネルにし、い草を使用する畳もサラサラ感のある麻畳に、さらにダイニングテーブルの高さをシステムキッチンの高さに合わせる、無印良品のシェルフを使用して仕切りをつくり、外せば一体空間になる伸び縮み自在なLDKの工夫など。
このほか、戸建て住宅のほうでも従来タイプのお仕着せでない、「無印良品の3つの家」を軸にしている(「木の家」=大きな吹き抜けでゆるやかにつながる一室空間の家。「窓の家」=好きな大きさで窓を開けられる三角屋根の家。「縦の家」=6つの部屋を組み合わせて暮らす空間を縦に広げた家)。
以前、良品計画の金井政明社長(現在は会長)は、こう語っていたことがあった。
「億ションのマンションなら、ジャグジーバスは大抵、標準装備でしょう。で、3000万円のマンションならバスのサイズはこんなものと、供給側の論理でだいたい決まっているのが普通です。でも、3000万円のマンションでもバスだけはこだわり、ジャグジーが欲しい人もいるわけです。ならば、我々がそれを実現してしまおうと」
そこでMUJIホテルである。無印良品の住宅も、モデルルーム内には自社商品の装飾が施せ、リノベーション物件の場合も同様だ。その住宅と並んで、無印良品の従来のステレオタイプではない空間設計の仕様を体感してもらうには、ホテルはうってつけともいえる。照明や壁紙、ベッド、クローゼット、バスやトイレの作りこみと関連アメニティグッズなど、他のホテルでは手がけそうにない空間や商品設計が期待できるからだ。
さらに、ホテルの下層階に下りれば、無印良品の大型店がある仕組み。無印良品の世界観を体験した宿泊者たちが、今度は実店舗で単品ごとに商品を手に取り、色味や手触りを実感しながら高い購買率につなげ、インバウンドの客層であれば母国に帰国して口コミで無印良品の良さが伝播していく――そんな仕掛けといっていいだろう。
そういう意味で、日本では初となるMUJIホテルは、ほかの銀座エリア内のホテル群とは一線を画したホテルになるだろう。それだけ独自性で勝負できるわけで、勝算はかなりあるはずだ。
もちろん、銀座エリアに限らずホテル戦争はこれからさらに熾烈さを増していく。場合によっては東京五輪後、稼働率が低空飛行となり、ホテルを手仕舞いするところも出てくるかもしれない。MUJIホテルの場合も、銀座で想定以上の業績を収めることができれば、他の大都市でも横展開していく可能性はあるが、逆に、意外に苦戦した場合はどうか。