実は、銀座のMUJIホテルには“可変性”がある。最初からホテル仕様の躯体にしてしまうと、事務所用途に比べて少し階高が低いため、ホテル用から事務所用には戻せなくなってしまうのだが、MUJIホテルの場合、階高を高めに確保して造るため、ホテルとしては贅沢な空間だが、これが将来、仮にホテル用途をやめてしまった場合、事務所用途に戻せるように設計されているのである。
つまりリスクヘッジ的な観点からいえば、仮に万一、MUJIホテルが将来、クローズすることになったとしても、事務所用途に転用できるのであれば、家主の読売新聞社が違うオフィステナントを探すこともできる。
場合によっては、下層階に無印良品の大型店を置くだけに、いまは東池袋に本社を置く良品計画が当地に本社移転し、自社の大型店舗と直結して、顧客の声や反応をダイレクトに吸い上げることも可能だ。
場所も小売業にとって文句なしの銀座。しかも東京五輪を過ぎれば、年々地価が下がり、当地の家賃も一転して下がっていく可能性もある。そうなれば、良品計画にとっても悪い話ではないはずだ。もし、そこまで視野に入れてのMUJIホテル計画だとしたら、良品計画は実にしたたかで、逞しい企業だといえるだろう。
■文/河野圭祐(月刊『BOSS』編集委員)