かつて氏は『思考の整理学』で受け身の知識に頼る〈グライダー〉型の秀才は早晩、〈コンピューターという飛び抜けて優秀なグライダー能力のもち主〉に駆逐されると予言。自力で飛べる〈飛行機〉型知性をこそ育むべきだと警告していた。
「予言というより直感だな。AIは不眠不休で働けて、給料や過剰労働への不満も一切訴えないからね。政府は教育の無償化や北朝鮮問題で国民の目を逸らそうとするけど、どうやって人類は生き延びるのか、今は21世紀最大の難題について考える、好機でもあるんです」
老いも然り。妻が骨折して以来、朝昼晩と厨房に立ち、極力自活するのが外山流だ。炊事は手、お喋りは口、と五体を動かすことを心がけ、〈きれいさっぱり忘れると、頭はよくはたらく〉〈横臥第一、睡眠第二〉と、忘却や不眠すら工夫次第で肯定してしまう。
「頭を空にしないと新しいことが入らないのは道理ですよ。また異分野の友人は積極的に作るべきですが、飽きたらさっさと他へいくのが、お互いのためです!」
ちなみにスタイリッシュ・エイジングの本場アメリカではリズ・カーペンターが〈招待を断わるな〉〈人をもてなせ〉〈なにがなんでも恋をせよ〉と提唱。一方日本では岸信介の〈ころぶな〉〈風邪ひくな〉〈義理を欠け〉が有名だが、〈大人多忙 小人閑居〉を地で行く著者は、もちろん前者派だ。
また、旧制中学の軍事教練で緊張のあまり笑いこけ、甲乙丙丁で丁評価に甘んじた外山氏は、むしろ笑うために道化役を召し抱えた昔の貴族の知恵に着目し、〈怒ってよし〉〈泣くもよし〉〈威張ってよし〉と、喜怒哀楽の活発化をめざす。
「笑う、泣く、怒るなど、年甲斐もないことほど実は健康的で、周囲に遠慮して〈ストレス・メタボリック症候群〉になるのが一番よくない。たとえ人様に嫌われようと、寿命を縮めるよりはずっといいんです」