◆「平和維持」にも各国の思惑がある
文民警察隊の過酷な日常を知るにつけ、覚えるのは猛烈な怒りだ。武器携行は許されず、丸腰の彼らは中古の銃を15ドルで買い、ポル・ポト派でも穏健派のニック・ボン准将と関係を築くが、1993年4月に日本人ボランティア中田厚仁氏が殺害され、翌週は平林新一隊員が襲われてなお、政府は派遣の前提となる〈停戦合意の成立〉は崩れていないと主張。
現場の声は一切届かない中、翌5月にはアンピル近郊を移動中の車列が護衛のオランダ海兵隊もろとも銃撃されて死者1名、重軽傷者9名を出したあの事件が発生。その絶望的な温度差は日本で漫然としていた私たちにも痛切な悔恨をもって跳ね返ってくる。
「仮に襲撃事件がポル・ポト派の犯行となればUNTACは厳しい立場に置かれ、国連の平和維持といっても、各国の思惑やパワーゲームと無縁ではない。その現実は現実として直視した上で何とかやるしかない難しさに、僕自身、初めてリアルに触れた気がしました」
中でも川野邊が23年ぶりに現場を訪れ、ニック・ボンに真相を質すべく行方を追うくだりは、胸に迫る。古い写真を手に村々を歩き、ついに再会を果たした彼の憎しみは、今では政府軍で戦いの矢面に立ち、自らを〈戦う道具〉と呼ぶ相手の近況を知るにつれて変化し、一体誰を憎めばいいのかと途方に暮れてしまうのだ。
「番組では描ききれませんでしたが、相手が近くにいると聞いて唇を震わせた川野邊さんの怒りはいつしか相手への共感に転じ、ニック・ボンも『あれはポル・ポト派の犯行だ』と食い下がる川野邊さんに『貴方がそう思うのは仕方ない』と。彼も結局は組織に翻弄された一人で、川野邊さんはその日の日記に書くんです。〈彼もまた内戦の犠牲者であったのかもしれない〉と。