C-HRは2016年末デビュー。昨年1年間の国内販売台数が11万7000台と、SUVとしては画期的スマッシュヒットとなったモデル。売りは一にも二にもクーペルックにこだわったデザインだが、これが日本のみならず世界で受けた。ヨーロッパでも10万台を超える販売台数を記録し、この1台で苦境にあえぐトヨタのヨーロッパビジネスのプレゼンスが上がったほどだ。
ヴェゼルは2013年末に登場。C-HRが登場するまではSUV販売台数ナンバーワンの座にあった。C-HRほどエッジは利いていないが、まとまりの良いクーペルックと実用性が両立されていることと、サブコンパクトカー「フィット」がベースであることによる価格の安さが受けた。昨年の国内販売台数は6万4000台。C-HRに押されながらも前年比1割強の減少幅に押しとどめるなど人気は根強い。
エクリプスクロスがこの2トップが占めるコンパクトSUVカテゴリーに割って入り、存在感を示すことは可能なのか。
これまでの取材実感に照らし合わせると、商品力の面では十分に可能と考えられる。デザインについては百人百様のユーザーの好み次第というところがあり、定量的に良し悪しを推し量ることはできない。実物は十分にマッシブで、三菱SUVらしさは出ている。
2トップにないエクリプスクロスの特質として挙げられるのは、デザインではなく走行性能である。C-HRはプリウス、ヴェゼルはフィットと、どちらも乗用車ベースであるのに対し、エクリプスはアウトランダーと同様、FWDベースのSUVプラットホームで作られている。未舗装道路などでサスペンションに大きな力がかかったときもそれをボディ側がしっかり受け止める構造を持っている。
このクルマでオフロード走行を積極的に楽しみたいという顧客は多くはないかもしれないが、ボコボコの道路でもサスペンションをわしわしと大きくたわませながら鷹揚に走れるというのは、ある程度のオフロード走行能力を持ったクルマならではのテイストだ。
オンロード重視とはいえ、エクリプスクロスは約20度のアプローチアングル(バンパー前縁をこすらずに坂道に取りかかれる最大の角度)を持っており、最低限のオフロード走行能力を有しているのも特徴。
単なるスペシャリティSUVではなく、三菱ならではのオフロード車作りの哲学が盛られているといったことをしっかり伝えられれば、ネイチャーや冒険好きの顧客からは好意的にみてもらえるであろう。
もっとも、こういうコミュニケーションを顧客と交わすのは簡単ではない。筆者は昨年の初冬にひとまわり小さなSUV、RVRで北関東~東北南部を巡った。そのさいに荒れ気味の未舗装林道を通過してみたのだが、果たしてRVRはタイヤが片輪浮くようなモーグルでも思いのほかタフに走った。
一部の三菱ファン以外にはそういう情報はほとんど伝わっておらず、デザインのイメージから乗用車ベースSUVくらいにしか思われていない。三菱に興味のない層に対し、そういう特質を、いかに的確に伝えていくかといった工夫が必要だ。
2トップに対して明らかなビハインドとなっているのはパワートレインの多様性がないこと。C-HR、ヴェゼルともハイブリッドパワートレインがあることがセールスポイントになっているのに対し、エクリプスクロスは1.5リットルターボ+CVTの1種類のみ。このエンジンは筒内噴射とポート噴射を状況によって使い分けるという贅沢な構造を持っているが、それだけでは押しが弱い。
ハイブリッドがなくともターボディーゼルがあれば、それを特質として押せるところなのだが、残念なことにエクリプスクロスは欧米モデルでもディーゼルはなく、当面はガソリンターボだけで戦わなければならない。FWD車に6速MTがあるのは救いであろう。