芸能

小泉今日子「不倫告白」私論 エイズ騒動の時、彼女は

生き様も評価されてきた

 誰もが戸惑った突然の“告白”だった。案の定、評価は二分したが、作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏は1990年代の半ばに自身が行なったインタビューを思い出したという。

 * * *
 小泉今日子さんが豊原功補さんとのパートナー関係&恋愛関係を公表、それをめぐって激しい賛否両論が巻きおこりました。当初は彼女の生き方を「潔い」「キョンキョンらしい」とする肯定的なコメントも耳にしましたが、時の経過につれて辛口意見の方が増えていったように思います。

「小泉さんの発言は、自分のことしか考えていない」
「自分はすっきりするかもしれないが豊原さんの妻子を精神的に追い詰めている」
「カッコよく見せたいだけ」

 芸能界とマスコミの関係、二人と家族の関係、事務所独立と今後の仕事……何がどう交錯しているのか他人は知り得ないわけですが、公表された部分に対してはテレビコメンテーターからの辛口意見やネット上での批判的意見の方が目立ったようです。

 でも、少なくとも小泉さんは相手の家族のことを想像できないような鈍い感覚の人ではないはず、と私は感じています。そう推測するのには理由があります。23年以上前、小泉さんに直接会って話をしたこんな経験からです。

 当時、小泉さんを巡って「エイズを罹患か?」という噂がまとこしやかに流され、怪文書が出回ったり死亡記事まで出たりして騒ぎになりました。しかし、小泉さんは記者会見等をせず、「陰性」の検査結果をプリントしたTシャツの写真を公表したのみ。

 私はその頃、血液製剤によってHIVに感染したエイズ患者・大貫武君(故人)と共に、エイズ患者の生き方をテーマにした本作りを進めていました。

「小泉さんはきっと騒動の中で当事者の気持ちをリアルに想像したに違いない」と感じていた大貫君は、「噂になった時どんな気持ちがしたのか、陰性なのになぜ記者会見を開かなかったのか、直に話しをしてみたい」と、本の中で小泉さんに対談を依頼することを考えたのです。

 また、小泉さんは映画『病院へ行こう2』(1992年)で死を間近にした若いガン患者を演じていました。ガン末期であっても活き活きとやりたいことを実現していく女の子の役で、大貫君がその演技に深く共感していたことも依頼理由の一つでした。

 とはいえ、もちろん「ダメでもともと」。小泉さんはトップアイドルの上、「エイズ」というテーマについて、しかも患者と直接対話するなんてまず事務所が許すはずない──。

 そうした冷静な認識ももちろんあったのですが、しかし一か八か、依頼だけはしてみようと私たちは決めました。大貫君と私は「なぜあなたに依頼したいのか」という理由を手紙にしたためて、小泉さんの事務所に送りました。

 1ヶ月程経過した頃。突然、「小泉が引き受けたいと言っています」という返事がマネージャーから入ってきました。こうして赤坂のホテルの一室で対談が実現し、大貫君は「感染を拒否する記者会見は開かなかったんですか?」と問いかけました。

小泉──ええ。自分から積極的に記者会見をして、いろんな人に知らせる必要はないかなって思ったんです。なんていうのかな、噂をたてられて、初めて患者さんの気持ちが身にしみたでしょう。『私はエイズじゃありません』と宣言することには、なんだか抵抗があったんですよ。本当に病気と闘っている患者さんが傷つくような気がしてね。だって、エイズというのは、病気であって、別に悪いことをしたのでもなんでもない。それなのに、わざわざ公に否定しなければならないのも、どこか変でしょう。私が噂をたてられたことで、誰にも傷ついてほしくないって思ったのね。傷ついてほしくない人の中には、エイズの患者さんも入っていました。(『エイズを100倍楽しく生きる』径書房刊 p.141)

 小泉さんはそう答え、記者会見をしなかった一方でTシャツに検査結果をプリントして公表したことについては、こう説明しました。

「私の身体を心配してくれるファンのコたちがいた。あの噂は本当なのかどうかって、やきもきしている。だから、ファンのコたちにだけは、真実を伝えたいと思ったんです。それで考えました。エイズ検査の結果票をそのままオシャレなTシャツにプリントして、下に英語のメッセージを入れたんです。その内容を知りたい子は、訳せばわかるっていう形にしたの」(同書 p.142)

 プリントされたメッセージは、「噂に感謝します」という意味の英文でした。

「エイズの噂をたてられたことで、患者さんの感じ方とか、無責任な噂のたち方とは、そういうことの怖さとかを、知ることができた。知らなかったことを教えてくれた」という意味だと小泉さんは言いました。

 対談を引き受けたことについても、「自分で決めた」と語っていたことが印象に残っています。まさに言葉の端々に生き様が見えてくるような対談でした。

 時が経過しても、人間の生き様の根幹というものはそう簡単に変わるものではないはず。人と人との関係には、他者が決してわかりえないさまざまな事情が絡み合っている。今回の出来事についても目に見える事象に留まらない背景や要素があることは想像できます。

 私が伝えたい点はただ一つ。少なくともエイズ騒動をめぐって、小泉さんが自分のことだけでなく「患者の視点」、そして自分を心配している「ファンの視点」という、「複数の視点」をたしかに持っていた、ということです。

関連記事

トピックス

11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《中国とASEAN諸国との関係に楔を打つ第一歩》愛子さま、初の海外公務「ラオス訪問」に秘められていた外交戦略
週刊ポスト
グラビア界の「きれいなお姉さん」として確固たる地位を固めた斉藤里奈
「グラビアに抵抗あり」でも初挑戦で「現場の熱量に驚愕」 元ミスマガ・斉藤里奈が努力でつかんだ「声のお仕事」
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
地元コーヒーイベントで伊東市前市長・田久保真紀氏は何をしていたのか(時事通信フォト)
《シークレットゲストとして登場》伊東市前市長・田久保真紀氏、市長選出馬表明直後に地元コーヒーイベントで「田久保まきオリジナルブレンド」を“手売り”の思惑
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
26日午後、香港の高層集合住宅で火災が発生した(時事通信フォト)
《日本のタワマンは大丈夫か?》香港・高層マンション大規模火災で80人超が死亡、住民からあがっていた「タバコの不始末」懸念する声【日本での発生リスクを専門家が解説】
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン