例えば500戸クラスの管理組合の場合、年間に執行する管理費の予算は約1億円。積み上げる修繕積立金も数億円規模。場合によっては10億円以上積み上がる場合もある。そういったお金をどう使うかは、すべて理事会と理事長に委ねられる。
もちろん、予算案や決算案の承認には年に1回開催される管理組合の総会決議が必要だ。しかし、総会に出席して賛成や反対の議決権を行使する人は少ない。500戸のマンションで総会を開いた場合、出席している人は100人未満であることが普通だ。多くの人は議長一任の委任状か議決権行使書をあらかじめ提出する。
私が知る限り、議決権行使書において一つひとつの議案に賛否を表明するよりも、議長一任の委任状を提出する人の割合が高い。つまり、総会において議長を務める理事長は事実上議案の議決権を握っているケースがほとんどだ。
さらにいえば、議案自体は理事会の承認を経る仕組みになっている。いってみれば、議案として提出される限り、可決されるのは当然という成り行きになっている。
お気づきだろうか。今のシステムでは理事長になりさえすれば、管理組合の運営はほぼ思いのままにできる。あるいは、理事会を支配できる力があれば同様の権力を手にすることができる。つまり500戸規模のマンションの管理組合で実権を握ると、年間1億円の管理費予算の使い方や、十数年に一度巡ってくる数億円規模の大規模修繕工事をどのように行うかを決めることができる。これは明らかな利権である。
現在、マンション管理について区分所有法という法律が定められている。しかし、これは1962年の施行だ。なかなか良くできているが、かなりの制度疲労も起こしている。
何よりも、この法律は性善説に基づいている。管理者(理事長)が悪意を持って管理組合を私物化することを想定していない。だから、現行法制化では理事長や管理組合の実力者が利権をむさぼり、私利私欲に走ることをほぼ阻止できていない。
いくつか例を上げよう。まず、最近ではもっともセンセーショナルなケースとしては「石打ツインタワー7億横領事件」だろう。
新潟県南魚沼市のリゾートマンションで15年間理事長を務めていた公認会計士が、組合の修繕積立金を約7億円も横領していた事実が発覚したのだ。この男性は通帳を偽造することで長年にわたる横領を隠蔽してきた。このマンションは修繕積立金の会計が一気に悪化し、外壁工事を延期したという。
私の知るある都心のマンションは、築10年なのに大規模修繕工事を実施した。主導したのは6年ほど管理組合を牛耳る人物。それを決議する臨時総会に、理事長の自宅前アルコーブに門扉を設ける工事や自分にとって有利な駐車場の障害者割引料金を設定する議案まで紛れ込ませていた。
私たちは反対派グループを形成して仲間を募ったが、結局のところ理事長一任の委任状を行使されて疑問の多い議案はすべて可決。その後、区分所有法に基づく理事長解任のための臨時総会を招集してみたが、自らが議長となって同様に委任状を行使。自らの解任を求める議案を否決して見せた。
その後、その人物はどういう容疑かは不明だが、警察の家宅捜索を受けていた。数年後、理事長を自主的に退任したあとで自宅は競売に掛けられた。管理組合の理事長を続けることで、自宅のローン返済と生活費を賄っていたのではないかと推測せざるを得ない状況だ。
こんな事例もある。新築の入居時から管理組合の運営に熱心なある人物は、すでに約10年も理事長や監事、副理事長などを歴任する実力者だ。管理規約の改正や共用施設のサービス変更など、多くの実績も残している。
しかしこの人物、管理会社変更の話が出ると必ず潰しにかかる。また、この人物が主催する管理組合関係のパーティには、会費では賄えない豪華な料理が出てくる。そして、必ず管理会社の名物フロント(担当者)が参加している。傍から見ていると、この人物は明らかに管理会社と特別な関係にあるように映る。