3年後の大晦日。「どうしていいかわからないくらい幸せ」なのに「もっと幸せにしてやる」と亭主に言われた女房が「もう嘘はつけない」と涙ながらに真実を打ち明け、「これから私たちどうするの!? お前さんが決めて!」と迫る。談志の「ぶっても蹴ってもいいけど捨てないで! 好きなんだもん!」とは異なる「強くて可愛い女房」だ。
亭主に「除夜の鐘は今年のことを全部流すんだ、忘れよう」と言われても「それじゃイヤなんだよ!」と食って掛かり、「すまなかった。お前のおかげだ、ありがとう」と礼を言われると「そういうことを言わせるつもりじゃなかった……でもありがとう」と照れる女房。ラブラブ夫婦全開だ。酒を勧められて躊躇する亭主を「グズグズ言わないで飲む!」と一喝するのには笑った。
『文七元結』『芝浜』共にオリジナル演出に磨きが掛かり、見事な出来。談春でしか聴けない「笑いと感動の人情噺」2席、東京から行って本当に良かった。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2018年3月2日号