5年前の誕生日に母と


 しかし、正子さんの食欲はなく、1回の食事でそば、サンドイッチをひと口…がやっとだったと言う。

「エンシュアという高カロリーの栄養剤が処方されるのですが、ものすごく甘くておいしくないんです。そこで母の好きな『午後の紅茶』のミルクティーにエンシュアを混ぜて冷やすと、『おいしい!』と喜んで飲んでくれました。食べることが大好きな人でしたから、母自身が自分の衰えをどう受け止めているかと思うと、つらかったですね」

◆介護のプロとタッグを組み、要介護4の両親に向き合う

 この時点で80代の両親はともに要介護になった。

「この頃には、私と両親は同じマンションの別フロアの別々の部屋に暮らしていて、私が中心になってケアマネさんとケアプランを考えました。父母ともに要介護4。母の介護用ベッドや父の車いすや歩行器などを借り、デイサービスやショートステイなどを利用するほか、両親ともに日常生活でも手助けが必要。役者として地方公演もある舞台の仕事は、まずまっとうできなくなる。仮に無理に分担を引き受けても、急にできなくなれば迷惑もかかる。

 一方で、家族なのに、息子なのに介護を人任せにするとは、なんと薄情な…と、人様は思うだろうとも。でも最終的には私がまったくかかわらない想定でプランを組みました。なぜなら父も母も、自分たちのために私が舞台を休むようなことになるなら、死んだ方がましだと思うような人たちだったからです。特に母は、私のいちばんの後援者で、舞台は100%見てくれていましたし、新派への転向を考えたときも『あなたがいいと思った通りにしなさい。ずっと輝いていて』と。

 おかげで両親が要介護になってから今まで、全力で芝居に集中できています。その分、少しでも時間が空けば親のために使いたいと思う。昼食を作ったり、おむつの交換もしますよ。もしひとりで背負っていたら、こんなにやさしい気持ちで両親に接することはできなかったと思います」

 ケアプランに組まれる作業だけが介護ではない。家族が笑顔でそばにいることがかけがえのない人生を豊かにする。特に自慢の息子が意気揚々と生きる姿なら、どれほど生きる糧になっただろう。

関連記事

トピックス

ロッカールームの写真が公開された(時事通信フォト)
「かわいらしいグミ」「透明の白いボックス」大谷翔平が公開したロッカールームに映り込んでいた“ふたつの異物”の正体
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんの「冬のホーム」が観光地化の危機
《白パーカー私服姿とは異なり…》真美子さんが1年ぶりにレッドカーペット登場、注目される“ラグジュアリーなパンツドレス姿”【大谷翔平がオールスターゲーム出場】
NEWSポストセブン
和久井被告が法廷で“ブチギレ罵声”
【懲役15年】「ぶん殴ってでも返金させる」「そんなに刺した感触もなかった…」キャバクラ店経営女性をメッタ刺しにした和久井学被告、法廷で「後悔の念」見せず【新宿タワマン殺人・判決】
NEWSポストセブン
初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、初の海外公務で11月にラオスへ、王室文化が浸透しているヨーロッパ諸国ではなく、アジアの内陸国が選ばれた理由 雅子さまにも通じる国際貢献への思い 
女性セブン
几帳面な字で獄中での生活や宇都宮氏への感謝を綴った、りりちゃんからの手紙
《深層レポート》「私人間やめたい」頂き女子りりちゃん、獄中からの手紙 足しげく面会に通う母親が明かした現在の様子
女性セブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン