国際情報

米朝協議は北朝鮮ペース トランプはまた過ちを繰り返すのか

米朝会談はトランプ氏の目論見通りに進むか(写真:AFP=時事)

 トランプ米大統領が北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の提案に応じ、史上初となる米朝首脳会談を開く意向を明らかにしている。報道によると、北朝鮮には非核化の意志があるということだが、果たしてアメリカの目論見通り進むのだろうか。トランプ大統領はティラーソン国務長官を更迭するなど、対北朝鮮外交には暗雲も漂い始めている。近著に『日本の情報機関は世界から舐められている』(潮書房光人新社)がある元自衛官で朝鮮半島問題研究家の宮田敦司氏がレポートする。

 * * *
 今回のトランプ大統領に対する金正恩の提案は、経済制裁がかなりダメージを与えていることが背景にあるのだろう。しかし、北朝鮮が核開発計画を完全に放棄し、非核化を実現する可能性は極めて低い。

 最大の理由は、非核化の前提条件として、アメリカが北朝鮮へ将来にわたり軍事的脅威を与えないと約束する必要があるからだ。このためには、アメリカは北朝鮮と「平和条約」を締結する必要がある。同時にこれは、休戦状態にある朝鮮戦争を終戦にすることを意味する。

 しかし、「平和条約」を締結しただけでは北朝鮮の不安はぬぐえない。現在、事実上、在韓米軍司令官が握っている戦時における韓国軍の指揮権(戦時作戦統制権)を韓国に返還するだけでなく、在韓米軍の撤収を北朝鮮は求めるだろう。しかし、これは北朝鮮側が要求しなくても文在寅大統領がアメリカ側に強く要求するだろう。

 果たしてトランプ大統領は北朝鮮の求めに応じて、在韓米軍の撤退を含む「平和条約」締結までやる気なのだろうか。もし何の問題もなく朝鮮戦争を終戦へと導き、朝鮮半島に本当の平和をもたらすことができたら、トランプ大統領は偉大な大統領として歴史に名を残すことができるかもしれない。

 だがアメリカは北朝鮮に対して同じ失敗を繰り返してきた。トランプ大統領は2017年10月7日、ツイッターに〈歴代の大統領や政権は、北朝鮮と25年間話し合いをしてきて、合意に達したり、多額の金が支払われたりしたが、効果がなかった。合意は、インクが乾かないうちに破られ、米国の交渉担当者はばかにされてきた〉と投稿している。

 トランプ大統領の言葉どおり、実際に米朝関係が「安定していたかに思えた時期」は、米朝対話や南北対話が進んでいた時だけで、しかも、その「安定」は瀬戸際外交の結果として北朝鮮が作り出したものだった。そして米朝間で締結された合意は、経済支援などの実利を獲得した後、北朝鮮側から反故にしている。

 北朝鮮は最初からアメリカとの関係を改善する気はなく、独裁体制維持のためにアメリカとの対立と対話を循環させていたに過ぎない。今回も昨年の激しい対立から、急転直下で対話へと転じようとしている。表向きは金正恩の提案という形にはなっているが、北朝鮮外務省が描いた筋書きにもとづくものと考えるべきだろう。

 米朝首脳会談後の実務レベルでの交渉では、今月になって外務次官に就任した崔善姫(チェ・ソンヒ)氏が中心となるだろう。北米局長を歴任していることもあり、過去の対米交渉の戦術も教訓も熟知しているはずだ。

 これに対してアメリカは、オバマ政権当時に北朝鮮担当特別代表に就任したジョセフ・ユン氏が先月辞任した。ユン氏の辞任は国務省に対北朝鮮交渉の難しさを熟知している人物がいなくなった事を意味する。

 過去の米朝交渉では、北朝鮮は姜錫柱(カン・ソクジュ)、金桂冠(キム・ケグァン)といった手強い外交官がアメリカとの交渉にあたってきた。アメリカはよほど周到な準備をしたうえで交渉に臨まなければ、これまでと同様に北朝鮮のペースで事が進むことになる。

 北朝鮮外務省が長期的な対米戦略を持っていると書くと、違和感を感じる向きも多いだろう。しかし、アメリカの圧力を跳ねのけて、三代世襲までして独裁政権を存続させることは並大抵のことではない。

 北朝鮮は常に「強国に取り囲まれている」という認識を持っており、このような危機感から北朝鮮の外交手法は、交渉相手の出方を見て極端に硬軟を使い分ける傾向がある。交渉で敗北することは独裁体制の崩壊に直結するからだ。

関連記事

トピックス

ロッカールームの写真が公開された(時事通信フォト)
「かわいらしいグミ」「透明の白いボックス」大谷翔平が公開したロッカールームに映り込んでいた“ふたつの異物”の正体
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんの「冬のホーム」が観光地化の危機
《白パーカー私服姿とは異なり…》真美子さんが1年ぶりにレッドカーペット登場、注目される“ラグジュアリーなパンツドレス姿”【大谷翔平がオールスターゲーム出場】
NEWSポストセブン
和久井被告が法廷で“ブチギレ罵声”
【懲役15年】「ぶん殴ってでも返金させる」「そんなに刺した感触もなかった…」キャバクラ店経営女性をメッタ刺しにした和久井学被告、法廷で「後悔の念」見せず【新宿タワマン殺人・判決】
NEWSポストセブン
初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、初の海外公務で11月にラオスへ、王室文化が浸透しているヨーロッパ諸国ではなく、アジアの内陸国が選ばれた理由 雅子さまにも通じる国際貢献への思い 
女性セブン
几帳面な字で獄中での生活や宇都宮氏への感謝を綴った、りりちゃんからの手紙
《深層レポート》「私人間やめたい」頂き女子りりちゃん、獄中からの手紙 足しげく面会に通う母親が明かした現在の様子
女性セブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン