「吉右衛門さんとは以前から知り合いで、『たそがれ清兵衛』に出た時は『おめでとう』ってすぐに電報をくれました。
『鬼平』の最初の撮影は二人が正面向きで話すシーンでした。いやあ、凄かったです。鬼平が目の前にいる。とんでもなく大きく見えました。それで『ダメだ』と思って撮影を止めてもらって、『俺、凄くちっちゃく映ってない』ってスタッフの皆さんに聞いちゃったんですよね。
そこには、長い時間かけて培った身体がありました。素晴らしかった。身体に積もっていたものは、実は見えるんだと確信できました。歌舞伎の場合、型の中に身体を埋め込んでいくでしょう。だからどんな背の低い人でも大物に見える。これは美しいことだと思います。芸の楽しみとはまた別の本質が、そこにあるんでしょうね。
その本質とは、やはり身体です。そういうのをオーラと言ったり、存在感と言ったりするわけですが、身体に伝統的に何かが通過して継承しているから見えたり感じたりするんだと思います。それがなければ、ただ立っているだけ。ロボットと同じです。踊りも同じで、十人二十人で同じ動きで踊っていても『いいね』と思えるのとそうでないのがある。つまり、身体こそが伝統の根原なのです」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館刊)が発売中!
◆撮影/五十嵐美弥
※週刊ポスト2018年3月23・30日号