「我々が持っている6000から7000ぐらいのアイテムの中で、お客様がスマホ、あるいはAIスピーカーに話しかけて注文できる商品群はそうすればいい。我々は、それでは補えないものをリアル店舗の中で価値として提供していくのです。その価値において、情報解析にフォーカスしてやっていらっしゃる典型がアマゾンさんですが、価値は情報だけではありませんから。
情報解析の中には、我々がどういう生活をしていくことが幸せを感じるかとか、社会や自然、人と人との関係性についてなどの解はありませんが、そこを考えているのが当社。AIやビッグデータ頼りだと同質化競争に収斂し、企業としての思想なり哲学は生まれないのです」
無印良品は、鉛筆1本から食品、雑貨、衣料品、インテリア商品、住宅、そして最近はホテルビジネスにも関わっている、世界でも類を見ない小売業。ゆえに、
「ベーシックな素材やデザインで簡素だが気持ち良く、誇りの持てる暮らし方、ライフスタイルの提供そのものが無印良品なので、当社は単品だけで語っても意味がない」
というのが金井氏の持論だ。もっと言えば、アマゾンに代表されるネット通販全盛時のいま、便利さの代償として失われつつあるアナログの価値が、商品、サービスともに必ず渇望されていくという読みだ。そうなると、単なる商品の販売だけでなく、気持ちのいい暮らし方の提案を企業の存在価値としている良品計画は、アマゾンにはない強みがある。
そして、最近のアマゾンには“小さな変調”を感じる人もいる。前述の主婦Aさんはこう語った。
「アマゾンも楽天も、リコメンドメールが来るのは正直、鬱陶しいですが、これまではほとんどアマゾンで買っていました。
ところが最近、たとえば欲しい雑貨やアクセサリーなどを検索すると、アマゾンにはなくて楽天にあったりするケースもありますし、ポイントの還元率は、アマゾンや楽天よりヤフーショッピングのほうが高いことに気付きました。ヤフーでもかなりお得に買い物ができるので、欲しい品物に応じて通販サイトを使い分けるようになりました」
果たして将来、盛者必衰の理はアマゾンにもあてはまるのか――。
●文/河野圭祐(ジャーナリスト)