「原発事故と甲状腺がんの因果関係はない」と言いたいのだろう。しかし、進行の速さやリンパ節転移のリスクが高いことなどの説明がつかない。今のところ原発事故との関係があるとも、ないとも言えないように思う。
そんななかで、福島県小児科医会などは、不安に思う子どもたちが多いことを理由に、検査の縮小を提案しているが、それで本当の安心が得られるのだろうか。
ぼくはチェルノブイリの汚染地域に医師団を102回派遣し、ぼく自身も何度も足を運んできた。ベラルーシでは放射能の見える化をして食の安全性を確保するとともに、健康診断を重視していた。年2回はホールボディカウンタで全身の内部被ばく量も測定。子どもたちには、汚染地帯から離れる「保養」も長期的に続けてきた。子どもたちは国内外に保養に行くことで、新しい文化を知り、人と出会い、前向きに成長していたのが印象的だった。
ミンスクの甲状腺がんセンターの所長であるユーリ・ジェミチェク医師は、「福島でも甲状腺検査は続けるべき。そして、甲状腺がんが見つかっても手術をするなどきちんと治療すれば、子どもの命は必ず守ることができる」とぼくに話してくれた。
昨年、過労で急逝し、これがぼくたちへの遺言になってしまった。
低線量被ばくとの闘いからすれば、7年という時間は短い。リスクを最小限にとどめるためには、この先20年、30年と事実を風化させず、すべきことを続けていくしかない。どんなにつらい現実も、忘れないかぎり復興の歩みは進んでいくはずだ。
●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に、『人間の値打ち』『忖度バカ』。
※週刊ポスト2018年4月20日号