母の死後、実家に一人で住む父が秋夕(チュソク)の茶礼(チャレ)の餅菓子〈ソンビョン〉を喉につまらせ、呆気なく逝ってしまう告別式の場面から物語は始まる。享年90の大往生だけに梨愛や兄〈鐘明〉は淡々と見送るが、遺体に縋りつく老人の〈日本人にさせられちゃって〉という呟きや、美しい弔問客〈金美栄〉の涙に娘は波立つ。母は生前父に女がいると疑っており、梨愛は真偽を確かめるべく、逗子まで美栄に会いに行く。
すると彼女は父の旧友・韓東仁の娘で、祖国の民主化を言論面で支えた東仁がKCIAに目をつけられ、獄死してからも、父はこの母娘を支えてきたと知る。
美栄は父のことを〈サンチョン〉と親しげに呼び、実はあのソンビョンも母国の行事を重んじる父のために美栄が作ったのだという。それが原因で父が死んだことをしきりに詫びる美栄は現在医師をしているといい、〈医者か弁護士になれ〉と強要する父に反発してきた梨愛は一層嫉妬に駆られた。
「私の父も昔はひどい毒親でしたが(笑い)、今はだいぶ丸くなりました。それは年齢もあるけれど、一番は韓国の政情の変化が大きかったと思う。祖国が軍事政権の弾圧下にあって、自由を奪われていることが、いかに人心を傷つけるか、私も何となく感じてきました。
韓国が民主化した時、既に運動から離れていた父には寂しさもある一方、今までにない明るさを感じた。私が父に詳しい話を聞けたのもつい最近のことですが、今では実家に帰る度にあの時はどうとか、父は私より20歳になる私の息子にルーツを聞かせたいようです」