国内

LGBT問題 このままでは当事者たちの居心地は更に悪くなる

偏見や差別がない世の中を望む気持ちは同じだが…

 少数者(マイノリティ)への差別や偏見はよくない。現代社会なら、誰もがうなずく基本的な考え方だろう。彼らの人権を守るため、当事者やその支援者たちは様々に活動している。とくにLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)の人権問題は、婚姻を法的に認める国や、パートナー制度を認める日本の自治体が増えるなか、世間の耳目を集めているテーマだ。ライターの森鷹久氏が、LGBTが注目を集めることによって起きる摩擦と、当事者の危機感について、考えた。

 * * *
 東京・新宿の飲食店でユウトさん(20代)が記者と”偶然”出会ったのは、昨年の夏前頃。パートナーの男性と一緒に酒を飲んでいたところ、仲間に入れてくれ、といって間に入ってきたのは大手新聞社の記者を名乗る女性だった。

「酔った様子もなく、店に入ってきてからすぐ、僕らのところにやってきたので”アレ?”とは思いましたが……」

 そこは、ゲイの人たちが多く集うことで知られてはいるものの、異性愛者や女性も受け入れる店だったため、誰でも観光気分で楽しみにくることでも有名な場所だった。とはいえ、知人でもないゲイカップルにずかずかと近づく女性客は珍しい。ところがその女性記者は初対面にもかかわらず、どんどん酒を勧めてきて、二人に関することを根掘り葉掘り聞いてきた。互いに秘密にしていること、あえて聞かずにいたことなど、問われることで気まずい雰囲気になっていることもお構いなしに質問を浴びせつけてくる。そして最後に、こう言って笑い飛ばしたのだ。

「LGBTいいですよね、と言ったんです。レズビアンやゲイが”いい”とはどういうことなのか、僕らはポカーンとしちゃいましたが、その時は”理解者だ”と思って、彼女のことを受け入れました。しかし……」

 この女性記者の「いいですね」発言の真意は、その直後にいやでもわかることとなった。

「その後すぐ、ゲイカップルとして取材を受けてくれないかと、電話が来ました。気は乗らなかったですが、パートナーにも相談して……と返すと、二時間くらいでしょうか”あなたたちが声を上げないから国が良くならない”みたいなことを延々と説得されました。なんか、僕たちが悪者扱いされているようで不快でした……」

 結局、ユウトさんはこの女性記者からの申し出を断ったが、何度も受けた「説得」はもはや、脅迫ともいえるような高圧的なもので、とてもユウトさんたちのような性的少数者に「寄り添う」モノではなかったと回想する。

「”いいですね”というのは、取材対象として、またネタになる存在としていい、ということだったんでしょう。取材を受けない、と言った途端にパタッと連絡は止みました。しばらくしてまた連絡が入り”顔出しの取材”を受けてくれる人を紹介してくれ、としつこく言われました。最後は”顔出しでしゃべらないと意味がない”とか”(取材を受けないと)いつまでたっても社会に理解されない”とまで……」

 ユウトさんはゲイではあるが、自身がゲイであることを、自分が直接、関わりがないすべての人にも理解されたいとまでは考えていないし、自分がそうであることを声高に訴えようとも思わない。ただ、ゲイやレズビアンといった「人々」の存在がある、ということを知ってほしいだけだ。

「性的少数者の中には、自分の存在を訴えたい、受け入れてほしいと強く願う人だっているでしょう。でも、僕たちはそうではない。心配なのは、僕たちの存在を政治的な運動に取り込もうとする人たちがいること」

 LGBTという言葉はもともと、そういう性自認や指向を持っているということを指しているだけであって、何かの運動に参加することを示しているわけではない。そもそも、性指向や自認は、その人がどのような人生を送るのか、どんな生活をしたいのかに深く関わる、実に個人的な問題だ。だからLGBTであることを公言するのか、秘密にするのかは本人が決めることだ。

 自分がゲイであると同じ性指向を持つ者とだけ分かち合うのか、異性愛者の友人にも話すのか。自分の職場で理解してもらうだけでなく、見ず知らずの人も含めた社会に広く知ってもらうのかは、人それぞれだ。それは当事者本人が決めることであって、社会的意義があるからと他人が決定することではない。飲食店でパートナーと仲むつまじくしているからといって、社会運動にも積極的なゲイだと考えるのは短絡的すぎる。

関連記事

トピックス

降谷健志の不倫離婚から1年半
《降谷健志の不倫離婚から1年半の現在》MEGUMIが「古谷姓」を名乗り続ける理由、「役者の仕事が無く悩んでいた時期に…」グラドルからブルーリボン女優への転身
NEWSポストセブン
警視庁がオンラインカジノ店から押収したパソコンなど(時事通信フォト)
《従業員や客ら12人現行犯逮捕》摘発された店舗型オンカジ かつての利用者が語った「店舗型であれば”安心”だと思った」理由とは?
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
看護師不足が叫ばれている(イメージ)
深刻化する“若手医師の外科離れ”で加速する「医療崩壊」の現実 「がん手術が半年待ち」「今までは助かっていた命も助からなくなる」
NEWSポストセブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン
キール・スターマー首相に声を荒げたイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
《英国で社会問題化》疑似恋愛で身体を支配、推定70人以上の男が虐待…少女への組織的性犯罪“グルーミング・ギャング”が野放しにされてきたワケ「人種間の緊張を避けたいと捜査に及び腰に」
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
【新宿タワマン殺人】和久井被告(52)「バイアグラと催涙スプレーを用意していた…」キャバクラ店経営の被害女性をメッタ刺しにした“悪質な復讐心”【求刑懲役17年】
NEWSポストセブン
女優・遠野なぎこの自宅マンションから身元不明の遺体が見つかってから1週間が経った(右・ブログより)
《上の部屋からロープが垂れ下がり…》遠野なぎこ、マンション住民が証言「近日中に特殊清掃が入る」遺体発見現場のポストは“パンパン”のまま 1週間経つも身元が発表されない理由
NEWSポストセブン
幼少の頃から、愛子さまにとって「世界平和」は身近で壮大な願い(2025年6月、沖縄県・那覇市。撮影/JMPA)
《愛子さまが11月にご訪問》ラオスでの日本人男性による児童買春について現地日本大使館が厳しく警告「日本警察は積極的な事件化に努めている」 
女性セブン