ムチャぶりの理由がもう1つあるとしたら、年上のキャラと先輩俳優による力強いフォロー。『正義のセ』は凛々子の担当事務官・相原勉を演じる安田顕さん、『やけ弁』は前述した教務主任・三浦雄二を演じる田辺誠一さんが、対立しているように見せかけて、新米なりの足りないところをさりげなくフォローしています。
彼らのような経験十分のキャラと俳優を横に置くことで、事件解決への流れも、ムチャぶりの設定もよりスムーズに。主人公が新米らしい空回りや勇み足をしても軌道修正が可能のため、1話の枠内で勧善懲悪を実現できるのです。
そもそも検事は、「失敗=犯人の処罰や更正ができず、えん罪を招くなど、社会に不安をもたらす」職業。「失敗が描きにくく、成功しか描けない」ため連ドラの題材としては難しく、検事が主人公の作品はあまり作られてきませんでした。検事が主人公というだけで難しいにも関わらず、新米という要素が加わった作品は希少。吉高さんにとっては、雲をつかむような気持ちで演じているのではないでしょうか。
一方、弁護士は、高嶋政伸さん主演の『都会の森』(TBS系)、上戸彩さん主演の『ホカベン』(日本テレビ系)のように、新米が主人公の作品が過去にいくつかありました。しかし、『やけ弁』の田口は、「弁が立つ=活舌がいい」という俳優にとっては、技術的なプレッシャーの大きい設定のため、神木さんの役柄も難易度が高いのです。
1話完結の痛快劇で、評判がよければシリーズ化の可能性もあるだけに、未見の人は一度チェックしてみてはいかがでしょうか。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本前後のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。