ビジネス

真の働き方改革 雇用労働と自営業の境界はあいまいになる

仕事の範囲や権限・責任が明確でない日本の労働現場

 働き方改革関連法案が国会で審議に入った。議論の的となっているのは、時間に縛られない働き方の是非だ。仕事内容や成果に応じて柔軟な働き方ができるという点では理想的に思えるが、反発も根強い。一体なぜなのか、同志社大学政策学部教授の太田肇氏が解説する。

 * * *
 働き方改革関連法案のなかで与野党対立の争点になっているのは、年収が一定以上の専門職を労働時間管理の対象外とする、いわゆる「高度プロフェッショナル制度」の導入である。

 データの不備により法案から削除された裁量労働制の対象拡大と同様、野党などからは「残業代ゼロ制度」とのレッテルを貼られ、成立阻止をねらった激しい抵抗を受けている。

 もっとも、時間に縛られない働き方については、労働者の側にも歓迎する人が少なくない。実際に欧米では管理職や専門職を対象に、時間管理の対象外とする「イグゼンプト」制度が広く普及している。

 にもかかわらず、なぜわが国ではそれほど反対の声が大きいのか? その点について疑問を抱く人が多いにもかかわらず、不思議なことにほとんど議論されていないのが現状だ。

 欧米で一般的な「イグゼンプト」のような制度をわが国で導入しにくい最大の理由は、個人の仕事が組織や集団から「分化」されていないからだ。

 欧米の企業では、個人の仕事の分担がはっきりと決められている。社員一人ひとりについて仕事の範囲、権限・責任、報酬の金額などが明確に記載された職務記述書が存在する。そのため「イグゼンプト」の対象となる人は、いくら短い時間しか働かなくても自分の仕事さえこなせばよい。

 一方、わが国では、たとえ専門性の高い職種でも集団でこなす仕事が多く、個人の仕事の範囲や権限・責任などは明確に決められていないのが普通だ。そのため仕事を効率的に片づけたら余分の仕事が回ってきたり、残業手当を支払わなくてもよいので業務量を一方的に増やされたりする恐れがある。「残業代ゼロ制度」と批判される理由はそこにある。

 しかも欧米と違って外部労働市場が発達していないので、労働条件が悪いからといって転職することも容易ではない。

 時間ではなく仕事の成果に応じて報酬が支払われるような制度を取り入れるためには、個人の仕事の成果を客観的に把握できることが大前提であるにもかかわらず、わが国ではその条件が整っていないのである。

関連キーワード

関連記事

トピックス

およそ揉め事を起こしそうにない普通の人たちがカスハラの主役になっている(写真提供/イメージマート)
《”店員なんて赤の他人”的な行為が横行》条例施行から2か月、減らないカスハラの実態 都内のコンビニ店員が告白「現役世代のサラリーマンが…」品出し中に激突、年齢確認にブチ切れ、箸に”要らねえよ”
NEWSポストセブン
指定暴力団山口組総本部(時事通信フォト)
六代目山口組の新人事、SNSに流れた「序列情報」 いまだ消えない「名誉職」に就任した幹部 による「院政説」
NEWSポストセブン
会話をしながら歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《親子スリーショットの幸せな日々》小室眞子さんは「コーヒー1杯470円」“インスタ映え”カフェでマカロンをたびたび購入 “小室圭さんの年収4000万円”でも堅実なライフスタイル
NEWSポストセブン
宮城野親方
何が元横綱・白鵬を「退職」に追い込んだのか 一門内の親しい親方からも距離置かれ、協会内で孤立 「八角理事長は“辞めたい者は辞めればいい”で退職届受理の方向へ」
NEWSポストセブン
元女子バレーボール日本代表の木村沙織(Instagramより)
《“水着姿”公開の自由奔放なSNSで話題》結婚9年目の夫とラブラブ生活の元バレーボール選手の木村沙織、新ビジネスも好調「愛息とのランチに同行した身長20センチ差妹」の家族愛
NEWSポストセブン
常盤貴子が明かす「芝居」と「暮らし」の幸福
【常盤貴子インタビュー】50代のテーマは「即興力」 心の声に正直に、お芝居でも日々の暮らしでも軽やかに生きる自分でありたい
週刊ポスト
ホストクラブで“色恋営業”にハマってしまったと打ち明ける被害女性のAさん(写真はAさん提供)
ホストにハマったAさんが告白する“1000万円シャンパンタワーの悪夢”「ホテルの部屋で殴る蹴るに加え、首を絞められ、髪の毛を抜かれ…」《深刻化する売掛トラブル》
NEWSポストセブン
西武・源田壮亮の不倫騒動から5カ月(左・時事通信フォト、右・Instagramより)
《西武源田と銀座クラブ女性の不倫報道から5か月》SNSが完全停止、妻・衛藤美彩が下していた決断…ベルーナドームで起きていた異変
NEWSポストセブン
大谷夫妻の第1子誕生から1ヶ月(AFP=時事)
《母乳かミルクか論争》大谷翔平の妻・真美子さんが直面か 日本よりも過敏なロスの根強い“母乳信仰”
NEWSポストセブン
麻薬の「運び屋」として利用されていたネコが保護された(時事通信フォト)
“麻薬を運ぶネコ” 刑務所の塀の上で保護 胴体にマリファナとコカインが巻きつけられ…囚人に“差し入れ”するところだった《中米・コスタリカ》
NEWSポストセブン
ホストクラブで“色恋営業”にハマってしまったと打ち明ける被害女性のAさん(写真はAさん提供)
〈ちゅーしたら魔法かかるかも?〉被害女性が告白する有名ホストクラブの“恐ろしい色恋営業”【行政処分の対象となった悪質ホストの手練手管とは】
NEWSポストセブン
公務のたびにファッションが注目される雅子さま(撮影/JMPA)
《ジャケットから着物まで》皇后雅子さまのすべての装いに“雅子さまらしさ“がある理由  「ブルー」や小物使い、パンツルックに見るファッションセンス
NEWSポストセブン