高山:水俣病も同じですね。天皇・皇后がいらっしゃるとみんな大いに感激してね。でもそれで何一つ解決するわけでなないし、折しも政府が新規患者認定に向けた悪評高い法律をつくったばかりというタイミングで、それで両陛下を慰問に行かせたんじゃないかとすら僕は疑いました。
でも今の天皇・皇后はそれを見抜いているから、胎児性患者の人たちとこっそり会ったことも公表したし、「真実に生きられる社会」とおっしゃったのは一つ、爆弾を投じたと思いますよ。隠蔽されてきたご自分たちの率直な声を、陛下自ら表に出しちゃった。ただそれも時と共に忘れられ、最も忘れてほしいと思っているはずの政府や関係省庁に「あの時のお言葉をどう考えますか?」なんてマスコミもいちいち聞きませんから、結局、不都合な声や存在は隠蔽され、イイとこ取りされてしまうんでしょう。
●たかやま・ふみひこ/1958年宮崎県高千穂町生まれ。法政大学文学部中退。1999年、ハンセン病で早世した作家の評伝『火花 北条民雄の生涯』(七つ森書館刊)で第31回大宅壮一ノンフィクション賞と第22回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書に『鬼降る森』(小学館文庫)、『水平記』(新潮文庫)、『エレクトラ』(文春文庫)、『どん底』(小学館文庫)、『大津波を生きる』(新潮社刊)、『宿命の子』(小学館刊)、『ふたり』(講談社刊)などのノンフィクション作品のほか、『父を葬る』(幻戯書房刊)や『あした、次の駅で。』(ポプラ文庫)などの小説がある。
●はら・たけし/1962年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。国立国会図書館に勤務後、日本経済新聞社に入社し、昭和天皇の最晩年を取材。東京大学大学院博士課程中退。現在は放送大学教授、明治学院大学名誉教授。著書に『昭和天皇』(岩波新書、司馬遼太郎賞)、『滝山コミューン一九七四』(講談社文庫、講談社ノンフィクション賞)、『大正天皇』(朝日文庫、毎日出版文化賞)、『皇后考』(講談社学術文庫)、『松本清張の「遺言」』(文春文庫)など。