◆北朝鮮の弱点
北朝鮮は自国に有利な状態で対話が続いている間は、米国と韓国に融和的な姿勢を取り続けるかもしれないが、米国と「友好関係」を維持することは、建国以来70年近く掲げてきた国是ともいえる「反米」のスローガンを自ら否定することになり、国民に我慢を強いるための最大の大義名分を失うことを意味する。
現在の北朝鮮は国外からの情報流入により、外国文化への憧れなど国民が様々な価値観を持つようになったため、ただでさえ反体制勢力が生まれやすい環境にある。このような環境下での「親米」の維持は、国民の意識を一層変化させ、秘密警察による力による統制と、思想教育による精神的な統制だけでは、国民の自由に対する欲求を抑えきれなくなる危険がある。
このように、北朝鮮には国外からの情報流入と食糧不足により、労働党と国家による国民統制が弛緩を続けているという弱みがある。長きにわたる経済制裁が特権階層から末端の階層に至るまで、様々な立場の人々の不満を高めている可能性は高い。このため北朝鮮は、一般国民を懐柔するための食糧や、特権階層を懐柔する資金の獲得に躍起になるだろう。
北朝鮮との交渉では、こうした弱みを突いて譲歩を引き出せるかどうかが重要なポイントとなるだろう。そのためには、北朝鮮のペースに乗せられることを回避しなければならないのだが、既に北朝鮮のペースに乗っているトランプ大統領と文在寅大統領にそれを求めるのは無理だろう。
経済制裁をこのまま継続するほうが金正恩政権の内部崩壊を促進し、政権崩壊後(朝鮮民主主義人民共和国崩壊後)の朝鮮半島北半分の地域から、(これから進められる米朝会談を経るよりも早期に)核兵器と弾道ミサイルを除去することができる可能性が高い。経済支援を与え、金正恩政権を延命させただけで、交渉が決裂する可能性のほうが高いからだ。
しかし、トランプ大統領と文在寅大統領はそうは考えていない。自分の在任中に目標を達成することができると確信しているだろう。
現実を直視しない大統領によって開かれる米朝首脳会談は、さきの南北首脳会談と同様に、米国と韓国の外交史上、最も壮大かつ愚かな「政治ショー」の幕開けとして歴史に記録されることになるのかもしれない。