◆成果を焦るトランプ大統領

 トランプ大統領と金正恩委員長が首脳会談で「朝鮮半島の非核化」と「朝鮮戦争の終戦」に「合意」したとしても、実現させることは簡単なことではない。具体的な工程表を作り、それを実行に移すために米朝は様々なレベルで協議を重ねることになるわけだが、その過程で北朝鮮は、先に述べた個別の施設の調査とは別に、大規模な経済支援を要求するだろう。

 11月の中間選挙を控え、なんとしても成果をあげたいトランプ大統領と、親北朝鮮路線を貫く文在寅大統領は北朝鮮の要求に応じるだろう。

 問題はその費用の負担を日本に求めてくる可能性が高いことだが、日本としては北朝鮮を利するだけの納得のいかない要求は跳ねのけるべきだ。北朝鮮は国営メディアを通じて日本を非難するだろうが、米国や韓国のような甘い顔を見せてはならない。

「非核化」や「終戦」を実現するためには膨大な手続きと時間が必要となるため、トランプ大統領の在任中に実現することはないだろうから、トランプ大統領在任中に著しい成果が出ていなかった場合、次期大統領の対北朝鮮政策は大きく変わることになる。

 これは韓国でも同様で、文在寅大統領の融和政策が次期大統領に継承されない可能性は大いにあり得る。つまり大統領が交代したら、米朝首脳会談と南北首脳会談での合意は自然消滅し、また元の状態に戻るのだ。

◆北朝鮮に騙されてはいけない

 北朝鮮は狡猾だ。国民を弾圧し人権を蹂躙することで政権を維持している金正恩の政治家としての能力には疑問があるが、政権を支えているエリート、特に北朝鮮外務省の対米交渉を担当してきた外交官の能力はあなどれない。

 今回のシナリオも北朝鮮外務省が作ったものだろう。今年2月、過去の米朝交渉で頭角を現していた崔善姫北米局長が外務次官に就任した。これは崔善姫氏が2月の時点で、対米交渉の総指揮を執るとともに、交渉の表舞台に出てくることが確定していたことを意味する。

 北朝鮮の狙いは米国と友好関係を結ぶことではなく、あくまでも体制保証を取り付け、実利(大規模な経済支援や投資など)を獲得することにある。「非核化」や「終戦」はそのための謳い文句であり、生存戦略の一端にすぎない。

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