1978年の暮れ、西城さんの新春コンサートでアメリカの人気グループであるヴィレッジ・ピープルの『Y.M.C.A』を歌う案が持ち上がる。マネージャーの天下井(あまがい)隆二氏は、過去にも作詞や訳詞をしていたこともあり、西城さんから指名されると、スタジオの屋上で『YOUNG MAN (Y.M.C.A.)』を1時間で訳詞を書き上げた。
同曲を1979年1月4日から6日までの大阪厚生年金ホールのライブで歌ったところ、初めて披露したにもかかわらず、会場が一体となる盛り上がりを見せたため、次のシングルを急遽差し替えることになった。
西城さんは天下井氏とレコード製造工場に訪れ、その場で従業員たちに向けて『YOUNG MAN(Y.M.C.A.)』を歌った。スター歌手、スター歌手のマネージャーだからと一段上から物事を見るのではなく、急な仕事をお願いされた従業員の気持ちに寄り添ったのだ。
「当時の西城さんの人気や多忙さからして、別に本人が訪れなくても、差し替えに文句は出なかったでしょう。天下井さんも西城さんも人の辛さや痛みがわかる人という証明だし、決して『自分のほうが上だ』という勘違いをしていなかった。1つの仕事をするのに上も下もない、みんな同じ立場だと心の底から思っていた。逆に言えば、そのような人たちだったからこそ、あれほどの大ヒット曲を生み出せた」
売れてるタレントを持っているマネージャーは、スケジュール調整などを自分でやることから、つい自分がスターのように錯覚するケースもある。実際、芸能界にそのようなマネージャーは少なくないという。
「一緒に仕事をするメディア側の立場から言うと、仮に自分がそのタレントと仕事をしたいと思っても、マネージャーの態度が無駄に大きかったり、ぞんざいに扱われたりすれば、もう2度とそのタレントと仕事をしたくなくなる。制作側は基本的に本人よりも、マネージャーと接する機会のほうが多いですから。逆に、マネージャーがすごく頑張っていたり、良い人だったりすると、その人と仕事をしたいと思います。これは、人間の偽らざる心境じゃないですか。