三島由紀夫の長編小説『美徳のよろめき』がベストセラーになったのは今から約60年前のこと。「よろめき」は流行語にもなり、“妻であり、母であっても恋愛をすること”がセンセーショナルを巻き起こした。
時代を超えた今、不倫は大きなニュースになり、「結婚しているのに、子供がいるのに」という声高な批判も聞こえるなか、恋愛漫画の名手・柴門ふみ氏が世間に投げかけたのが、この度コミックス1・2巻が発売された『恋する母たち』での「母が恋をしてはいけませんか?」という問いだった。
『恋する母たち』のヒロインは、名門中学に落第寸前の息子を通わせている三人の母たちだ。夫が外に女をつくって家を出て行ってしまったパート勤務の石渡杏。夫が社内不倫に夢中なセレブ主婦の蒲原まり。そして、自身がエリート会社員で夫との関係性に刺激がない林優子。母であり、妻であり、現役の”女”である彼女たちは、それぞれの岐路に立ったとき、どんな選択をするのかを描いた柴門ふみ渾身の一作だ。
人気連載のコミックス発売を記念した柴門氏と、『娼年』の映画化が話題の小説家・石田衣良氏の「大人の恋」スペシャル対談でその答えが見えた。
柴門:女性の欲望にもいろいろなバリエーションがあります。今回の作品で3人の40代の女性を主人公にしたのは、その多様性を表現したかったからです。1人にしぼってしまうと、考え方が偏ると思って。
不倫についての考え方にも個人差がありますから。『恋する母たち』に登場する母たちも三者三様で全然違う。まりは不倫したらすぐバレるけど、優子は感情をセーブできるからきっとバレない。世間には不倫なんか絶対に許せないと本気で思っている主婦も、もちろんいるでしょうし、自分はやらないけれども妄想の世界で楽しむのが好きという主婦もいれば、やらなきゃつまらないよねという実践派も、いろいろなタイプの主婦がいると思います。40代の妻であり母である彼女たちの日常と、女性としての揺らぎを描いています。