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北の独裁者を褒めちぎって功を急ぐトランプ大統領の頭の中

◆中間選挙しかみていないトランプ大統領

 今回の米朝首脳会談は歴史的なものだが、その意義は今後の経過を見なければ分からない。現段階で首脳会談の意義を評価するのは拙速なのかもしれないが、今年11月の中間選挙に向けて、たとえ表面的なものであっても目に見える成果をあげたいトランプ氏の頭のなかには、長期的な戦略はないだろう。

 この点が、これまでの米朝交渉にはなかった問題点といえる。そして、それが実務レベルの交渉を進める際の米国側の弱点となる。北朝鮮は功を急ぐトランプ氏が置かれた心理と、大統領の方針を無理にでも実現しようとする国務省の交渉担当者の心理を利用して、巧妙な戦術で交渉を進めるだろう。

 すでに2度目の首脳会談開催の可能性について報道されているが、それはあり得る話だ。北朝鮮はトランプ氏の興奮冷めやらぬ間に、次々とカードを切り、自国のペースで交渉が進むように仕向けるだろう。

 北朝鮮にとって、トランプ氏ほど分かりやすい米国大統領は初めてだろう。米国の国益ではなく、個人的な自尊心をくすぐれば意のままに動いてくれるからだ。問題は「予測不能」な人物であることだが、これを克服すれば北朝鮮に有利に働く。

◆日本は独立国としての決断をすべき

 米国が金正恩体制を保証することは残虐な独裁政権の存続を認めることだが、自国の安全保障のためならダブルスタンダードでも構わないのだろう。

 日本はトランプ氏のダブルスタンダードの犠牲となる。日本人拉致問題の解決に向けた動きとは関係なく、米国は日本へ北朝鮮に対する非核化に必要な費用の拠出や、経済支援を行うことを求めてくるからだ。

 日本が米国の財布代わりになるのは、いまに始まったことではないが、日本は米国の同盟国だが属国ではないので、トランプ氏の言いなりになるべきではない。日本の国益と米国の国益は一致している訳ではないし、今回の米朝首脳会談の目的も米国の安全保障のために開かれたものだからだ。

 北朝鮮が非核化だけでなく、日本を攻撃するための準中距離弾道ミサイル(ノドンなど)の廃棄など、日本の安全保障に寄与するステップを確実に進むまでは、米国と足並みを揃えるための経済制裁緩和は避けるべきだろう。

 北朝鮮側の行動に対する対価としての経済支援は最小限とし、強力な経済制裁の継続することで金正恩政権を崩壊させるべきだ。経済制裁の効果が出ているからこそ、北朝鮮は対話を求めてきたのだから、それを利用すべきではないだろうか。

 いつになったら実現できるかも分からない完全な非核化は、それからでも遅くはない。米国との協力関係は大切だが、日本は独立国としての長期戦略のもとで着実に駒を進めるべきであり、間違っても米国の駒になってはいけない。

 いまのままのペースでは、過去の米朝交渉での失敗を繰り返すだけならいいのだが、もっと痛い目に遭う可能性がある。トランプ氏はあまりにも焦りすぎている。おそらく首脳会談での合意内容は何も実現しないだろう。

 日本は北朝鮮との交渉を始めるにあたり、少し立ち止まって北朝鮮の戦略を分析すべきだろう。

●文/宮田敦司(朝鮮半島問題研究家)

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