『防衛大式 最強のメンタル』著者の濱潟好古氏
濱潟:練習は、11キロあるオールをひたすら漕ぐんです。オールで手の皮が剥けて、さらにはお尻の皮まで剥けてしまう。これは日常生活でも大変でした。掃除で使用する白い雑巾が血で真っ赤になったり、あおむけで眠れないくらいお尻が痛くなって。夏には真っ白の制服を着るわけですが、どうしてもお尻の部分だけ血の汚れが取れなくて、服装点検で「お尻不備!」って言われて(笑)。“指導”が入りましたね。あれには本当にまいりました。
二階堂:時代もありますね。いまは“指導”の時に体に触れてはいけないみたいです。
濱潟:防衛大の上級生って本当に体格も良くて。自分は小柄だし、運動神経も取り立てていいわけでもない。それでも、とにもかくにもやるしかない環境でした。懸垂なんて1回もできませんでしたが、1年が終わるころには20回以上できるようになりました。人間やればできるものだと思いました。
二階堂:学生の親御さんから、防衛大に入った子が帰省したら、当たり前に身の回りのことをやり、自信のある表情で、すごく変わっていたという話を聞いたことがあります。防衛大では、掃除洗濯を自分でやることはもちろん、服装や行動も一切の乱れは許されませんからね。成長する環境なのだと思います。
濱潟:最初は誰だってゼロ、何もできません。しかも防衛大では理不尽な指導があえて行われていました。激烈なストレスをかけられている環境でどうしていたか。突破口は「行動」することでしたね。何かやれば、良くも悪くも結果がでる。行動しなければ目の前のストレスを解消することができませんでした。よかったことを続け、失敗したことはしない。それは行動の質を高め、自信につながります。
ちょうど『あおざくら──防衛大学校物語』の最新刊(8巻)で描かれている1学年の中期は、右も左もわからない横一線の時期を超え、「小隊学生長付」というリーダーが決まる時期。生徒の中にヒエラルキーができる頃です。さらに、初の校外訓練。いざこざや衝突も多かったですが、精神的にも成長する時期でしたね。
二階堂:「小隊学生長付」、通称「少付」になった主人公の近藤勇美と成績優秀な土方俊明が、校外訓練を経て本音でぶつかり合うシーンは、8巻の山場になっています。近藤の「人は学んだら変われる」という思いに対して、「できないやつを切り捨てるのも優しさだ」と経験から言う土方。お互いが自分の中に持っているプライドというか、同期を助け合う食い違いが浮き彫りになって、打ち明け合う様子を描きました。