芸能

新宿末廣亭・席亭、落語は基本的に悪いヤツは出てこない

新宿末廣亭・4代目席亭もニヤっとしたという『お多福来い来い』(第14回『替わり目』より)

『ツレがうつになりまして。』(幻冬舎)などの作品がある漫画家・細川貂々(てんてん)さんが初めて落語をテーマにしたコミックエッセイ集『お多福来い来い』(小学館)が発売された。そこで、新宿末廣亭・4代目席亭の真山由光さんに同作について聞いた──。

『後生うなぎ』や『寿限無』『時そば』『替わり目』など寄席でよく出る演目から、『芝浜』や『死神』など寄席には出ない大ネタまで、どんな演目を描いても話の本筋をよく捉えているし、独特な見方もしていらっしゃる。

 初心者向けの手引き書でありながら、われわれ、寄席の人間が読んでも「よく知ってるじゃない」とニヤっとする部分もたくさんありました。

 亡くなった立川談志さんは、まだ若かりし頃に『現代落語論』という本を書いて、落語は人間の業の肯定だ、と喝破した。古典落語に現代をぶちこんで、みんなビックリしたものですが、この本を読んでそれを思い出しました。落語が描き出す人間の弱さや醜さも肯定しようという感性をこの貂々さんの本にも感じたんですね。

 貂々さんは「ダメな人間でも落語では主人公になれる」「救われる」と書いていますが、実際、人間なんて完璧なヤツはいませんよ。人生は失敗の連続で、それはどの落語を聴いても通底しています。

 そんな「愛すべきダメ人間」たる落語の登場人物はみんな魅力があります。与太郎もかわいらしくて面白い。がらっぱちの八五郎も愛嬌のある好人物です。

『替わり目』の亭主もまさにそう。酔ってカミさんに言いたい放題言って、挙げ句にはカミさんに酒のつまみにおでんを買いに走らせるんですが、カミさんが出かけた途端、しみじみカミさんのノロケを語り出す。

 と、いかにも子供っぽい亭主の話ですが、本当に酔っ払いの心情をわずか10分間でうまく描いているんです。いつ聴いても名作で、大好きな演目です。

 その夫婦を貂々さんは、「日本の男女関係の悪い見本」だと憤っていらっしゃいましたね。でも、ぼくから見れば、この亭主は酔っているからこそ大口を叩いているんだと感じますよ。ぼくも呑み助だからわかるんです。酔うとグダグダ言って女房を困らせちゃうんですよ。「寝なさいよ」と言われても寝ないでああだこうだとくだを巻く。でも、そんな悪いヤツじゃない(笑い)。

 落語って基本的に悪いヤツは出てきません。出てきても根っからの悪人ではなく、愛嬌がある。泥棒だって間抜けです。そこが落語の値打ちだと思いますね。

 そんな落語の魅力をこの『お多福来い来い』を通して新たに知ってくれて、寄席に来る人が増えたら、それはもう席亭冥利に尽きますよ。

※女性セブン2018年8月16日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

中核派の“ジャンヌ・ダルク”とも言われるニノミヤさん(仮称)の壮絶な半生を取材した
高校時代にレイプ被害で自主退学に追い込まれ…過去の交際男性から「顔は好きじゃない」中核派“謎の美女”が明かす人生の転換点
NEWSポストセブン
スカイツリーが見える猿江恩賜公園は1932年開園。花見の名所として知られ、犬の散歩やウォーキングに訪れる周辺住民も多い(写真提供/イメージマート)
《中国の一部では夏の味覚の高級食材》夜の公園で遭遇したセミの幼虫を大量採取する人たち 条例違反だと伝えると「日本語わからない」「ここは公園、みんなの物」
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《死刑執行》座間9人殺害の白石死刑囚が語っていた「殺害せずに解放した女性」のこと 判断基準にしていたのは「金を得るための恐怖のフローチャート」
NEWSポストセブン
手を繋いでレッドカーペットを歩いた大谷と真美子さん(時事通信)
《「ダサい」と言われた過去も》大谷翔平がレッドカーペットでイジられた“ファッションセンスの向上”「真美子さんが君をアップグレードしてくれたんだね」
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
《小室圭さんの赤ちゃん片手抱っこが話題》眞子さんとの第1子は“生後3か月未満”か 生育環境で身についたイクメンの極意「できるほうがやればいい」
NEWSポストセブン
『国宝』に出演する横浜流星(左)と吉沢亮
大ヒット映画『国宝』、劇中の濃密な描写は実在する? 隠し子、名跡継承、借金…もっと面白く楽しむための歌舞伎“元ネタ”事件簿
週刊ポスト
中核派の“ジャンヌ・ダルク”とも言われるニノミヤさん(仮称)の壮絶な半生を取材した
【独占インタビュー】お嬢様学校出身、同性愛、整形400万円…過激デモに出没する中核派“謎の美女”ニノミヤさん(21)が明かす半生「若い女性を虐げる社会を変えるには政治しかない」
NEWSポストセブン
山本アナ
「一石を投じたな…」参政党の“日本人ファースト”に対するTBS・山本恵里伽アナの発言はなぜ炎上したのか【フィフィ氏が指摘】
NEWSポストセブン
今年の夏ドラマは嵐のメンバーの主演作が揃っている
《嵐の夏がやってきた!》相葉雅紀、櫻井翔、松本潤の主演ドラマがスタート ラストスパートと言わんばかりに精力的に活動する嵐のメンバーたち、後輩との絡みも積極的に
女性セブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン